
原発が大国による覇権争いの手段としての意味合いを強めている。日本は唯一の戦争被爆国として非核三原則を掲げ、原子力の平和利用を進めてきたが、ほころびも目立つ。「新たなビジョンを示せなければ、日本に未来はない」と苦言を呈す元国際エネルギー機関(IEA)事務局長の田中伸男さんに、日本が進むべき道を聞いた。
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地政学リスク、かつてない厳しさ
――原発を通じた国家間の争いをどうみますか。
◆米国の原発の競争力が2000年以降、明らかに落ちた。01年発足のブッシュ政権が原発推進にかじを切るなど「原子力ルネサンス」を起こして巻き返そうとしたが、11年の福島第1原発事故の影響で建設費が高騰するなどして、うまくいかなかった。
その間に中国が原発を大量に建設し、ロシアを追って輸出拡大をもくろんでいる。
米国は中露による原発を通じた影響力の拡大を懸念している。パキスタンや北朝鮮にウラン濃縮技術を提供したのは誰か、考えてみてほしい。脱石油依存のため原発導入を計画するサウジアラビアも、「米国が輸出してくれないなら中国やロシアから買う」と言い出す可能性が非常に高い。
――イスラエルはイランの核施設を攻撃しました。
◆本当は非核兵器保有国で唯一、ウラン濃縮と核燃料の再処理技術を持つことを許された日本が「なぜ攻撃したんだ」と言わなければならなかった。
北朝鮮を見れば、露骨に核兵器の保有が米国などに対する抑止力となっている。ウラン濃縮技術を軍事転用すれば核兵器を開発することも可能になるため、「原子力技術を持ちたい」という国が増えている。
やはり西側諸国が平和利用のための技術を持っていないと、世界がもたない。原子力を巡る地政学リスクは、かつてないほど厳しい状況にある。
開発進む統合型高速炉(IFR)
――そうした中で東南アジアをはじめ、世界では小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる小型原発に関心が高まっています。
◆これから生成AI(人工知能)やデータセンターの需要が大きく増えていく。そこへ電力を供給する脱炭素電源として、米IT大手が一生懸命にSMRを建てようとしている。
一番のメリットは規制の問題だ。原子力災害対策が必要になる緊急防護措置区域(UPZ)を、発電所の敷地内に限定できる可能性がある。
――日本では使用済み核燃料の最…
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