
何事もなく、とにかく無事に終わってほしい――。
阪神甲子園球場で開催中の全国高校野球選手権大会で、東洋大姫路の右腕・阪下漣投手(3年)が、右肘のけがから大きな決断を経てマウンドに帰ってきた。
その姿を、母の千章さん(46)は祈るような思いで見つめていた。
「何が起きたか分からなくて」
異変が起きたのは、今春のセンバツ大会だった。
大会注目の右腕だった阪下投手は、壱岐(長崎)との1回戦で先発した。当日、千章さんはアルプス席で観戦していた。
その立ち上がり、先頭から2連続四球を出すなどし、2失点。右肘の張りを訴え、一回限りで降板した。
「何が起きたか分からなくて……。試合後に、チームのトレーナーさんから(状況の)連絡があったんです」
千章さんは当時をそう振り返る。
阪下投手は兵庫県西宮市出身。高校野球界で実績を残してきた岡田龍生監督のもとで野球がしたいと、親元を離れて東洋大姫路の門をたたいた。
千章さんは「野球の取り組みは息子の考えを尊重しよう」と、阪下投手とは野球の話はほとんどしてこなかった。
今回のけがも「落ち込んでいるだろうし、こちらから声をかけるのはやめておこう」と、親子でけがの話をするのは控えた。
一方、阪下投手の考えは少し違った。
「親…
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