
7000件以上の手術を担当した小児心臓外科医が、千葉県白子町の白子神社で神主としてデビューした。循環器専門の榊原記念病院(東京都府中市)で特任副院長を務める高橋幸宏さん(69)。神職となった今も手術台に立ち、子どもの命に向き合い続けている。【高橋秀郎】
高橋さんは1983年から榊原記念病院に勤務し、心臓血管外科主任部長などを歴任した。
新生児の約100人に1人が何らかの心疾患を持って生まれてくるという。高橋さんは、直径3~4センチの小さな心臓にメスを入れ、類いまれな手技のスピードと、麻酔医や看護師らとのチーム力で、多くの子どもたちの命を救ってきた。
「赤ちゃんが元気になることの喜びやご家族の言葉に支えられ、手術に一生懸命に取り組んできた」。65歳で定年を迎えた今もチームに入り、主に若手の指導に携わる。
神職への道を歩み出したのは3年前。白子神社の宮司、宮田修さん(77)と知り合い、「神主になりたい」と相談した。NHKアナウンサーから神職に転じた宮田さんは高橋さんに「志の高さを感じ、応援した」という。
高橋さんは宮崎県北部出身。日本神話にゆかりのある地域で、昔から神社を身近に感じていた。年を重ね、「小さい時からお世話になった神様に、外科医を長く続けられた感謝の気持ちを伝えたい。神社のお祭りにも役立ちたい」と考えるようになった。

昨夏、東京都神社庁の講習会で約1カ月間、神道の基礎知識や祭祀(さいし)の作法など学び、神職の資格を授かった。その後、白子神社に数回通って、実務を習った。
今年6月下旬、白子神社で年に1回開かれる「氏子健康祈願祭」で初めて、神主として祭祀を執り行った。狩衣(かりぎぬ)と烏帽子(えぼし)を身に着けて祝詞を上げ、大麻(おおぬさ)を振ってけがれを清めた。終了後、「言葉や作法を間違えないようにするので精いっぱい」と語った。来春はふるさとの神社で祭祀に臨む予定だ。
神主の資格を得てから、改めて医療について考えることがある。
「(赤ちゃんの治療では)うまくいかないことや、心が折れることが度々ある。赤ちゃんの魂や、重荷を背負ったお母さんに安らぎをもたらし、気持ちが沈んだ仲間を励ますことができれば」
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