19日にあった第107回全国高校野球選手権大会(日本高野連など主催)の準々決勝で涙をのんだ東洋大姫路に、「けがだらけの3年間」を乗り越えて打席に立った選手がいた。家族やチームへの感謝を胸にバットを振り抜いた。
同大会準々決勝の沖縄尚学(沖縄)戦。1点を追っていた九回1死一塁で、高田瑠心(りゅうしん)(3年)は内野ゴロを転がすと、「まだ終わらんぞ」と一塁にヘッドスライディングした。左手首には1カ月前の練習中に骨折した部分を固定するためのボルトが入れられていた。
1年生の時からけがには悩まされてきた。地元の中学から進学し、その夏からメンバー入り。だが、秋に腰椎(ようつい)を傷め、秋季大会ではメンバーを外れたこともあった。
筋力トレーニングを兼ねて毎日1時間かけて自転車通学していたが、昨年12月には帰宅途中に転倒。通りかかったバスに右足をひかれ、右足の甲を骨折した。松葉づえを支えに歩く生活だったが、自宅でストレッチなどに励み、2月に練習に復帰。今春のセンバツはスタンドから声援を送った。
「甲子園には夏に行けばいいんだ。絶対に」。励ましてくれたのは父だった。練習が終わって寮でチームメートが食事をとっている時間も、自宅から通う選手たちと一緒に自主練習をした。バットを振り続け、夏の兵庫大会では4番打者の座をつかんだ。
だが、4回戦後の練習中に左手首を骨折した。「最後の夏を諦めたくない」と、2日後には手術し、手にボルトを入れて戦列に復帰した。準決勝では、痛み止めを服用して5番打者として出場。兵庫大会決勝では適時打を放った。
チーム内では4番・白鳥翔哉真(ひやま)(3年)がライバルだった。「あいつも頑張っている。負けられない」と闘志を燃やした。
15日にあった2回戦の花巻東(岩手)戦。一回裏2死二塁の場面で、その白鳥が敬遠され、続く打席でフルカウントからの1球を見事に左前に運び、先制に成功した。準々決勝でも1点を追う七回に先頭打者で中前打を放ち、気を吐いた。
スタンドでは、妹の莉愛那(りあな)さん(16)が、応援指導部の1年生チアリーダーとして赤いポンポンを振った。昨年12月に兄が交通事故で骨折した時は、「早く打席に立つ姿を見たい」と願った。4月に同高に進学し、チアリーダーになると30曲を一から覚えた。「お兄ちゃんも甲子園に出られるように頑張ってきたから」と同級生と自主練習を繰り返した。準々決勝でも一心にエールを送った。
準々決勝で東洋大姫路は1―2で沖縄尚学に敗れた。土だらけのユニホーム姿の高田はあごにも土をつけたまま、涙をにじませた。そして、声を振り絞った。「このチームで良かった。最後の甲子園は最高でした」【前田優菜】
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