滋賀県米原市が新規就農を検討する人に開く「まいばら農業塾」に50代の毎日新聞記者が入塾した。塾での体験を伝える連載の2回目。【長谷川隆広】
今年のまいばら農業塾は2日に開講した。私を含め3期生16人。米原市世継の農園で初顔合わせ。若い人や同世代。移住して来た人も。自己紹介を聞くと、個性豊かな顔触れにびっくり。いつかこの連載で紹介させてもらえたら。
やる気満々で迎えた開講だったけれど、実は数日前、ある一文に、はたと立ち止まってしまった。誓約書に「講義終了後は、原則、米原市内で農業従事に努めます」とある。やってみたい、気持ちはある。でも、すぐに従事となると……。農業のやり方も、就農、「半農半X」、田舎暮らしと、いろいろだ。講義終了後に選ぶ道も人それぞれだろう。ただ、この塾が真剣に農業と向き合う場であることが、この一文から伝わってきた。私は襟を正して署名した。
LINEで連絡、相談共有
開講日。まずはオリエンテーションから。説明は市農政課課長補佐の関沢匡司さん。さっそくLINEグループが作られ、講師や同課、同期生との連絡、相談などをここで共有していく。適時お役立ち情報も発信してもらえる、というありがたいシステムだ。
熱中症対策などの説明の後、しっかりくぎも刺された。講習は全10回。ただ、それだけで野菜が育つわけがない。できるだけ水やりや草抜きなどに通ってください、とアナウンス。もちろんです。朝に作業すれば、熱中症対策にもなるし、きっと仕事にも影響しない。でもどうしても来られない場合はどうしよう。心配を見透かしたように関沢さんから助け舟が。「LINEグループで講師や仲間に助けを求めることもできますよ」。無理なく始める農ライフとはこのことか。
初の座学は「野菜の生理生態」がテーマだった。県の普及指導員が講師として教えてくれる。野菜の生育温度や発芽するための最適温度▽発芽に光を必要とする野菜と必要としない野菜▽植物の病気の感染経路――など。一つ一つの説明に、心の中で「へー」とうなずく。
日光に当てるには「南北に立てる」
畝の立て方の話には、引き込まれた。均等に農作物に日光を当てるには「畝は南北に立てる」のだとか。畝を立てる方向なんて考えたこともなかった。なるほど、南北に立てると、東西からの光もよく当たるというわけだ。もちろん、東西に強い風が吹く地域など例外もあるそうだ。
講義を受けて改めて感じた。私は農業について本当に何も知らない。畝の立て方一つ知らない。これって栽培方法だけの話ではないよなぁ。例えば、食卓に上る野菜を育てるのにどれだけの労力とコストがかかるのか。気候変動が栽培にどれほど影響を与えているのか。ああ、学ぶことは山ほどある。おまけに労力なんて言い出すと、実体験がないとなかなか分からない。
気を取り直して、農園区画の抽選に。受講期間中は各人に4メートル×5メートル(約20平方メートル)の区画が貸し出される。私が引いたくじは「I」。農園の一番端、琵琶湖に近い場所だ。「I」の標識を地面に立てていると、講師が「この区画は風が強いので栽培が難しいかも」とぽつり。そ、そんな……。分かっていたらもっと気合を入れてくじを引きましたよー。でもすぐに「背の低い野菜なら大丈夫。風通しがいいとも考えられますよ」と、笑顔のフォロー。それなら安心です。
次の講習は1、2期生の誰もが「一番しんどかった」と振り返った作業。畝立て。さすがに楽しみとは書きづらい。でも、頑張ります。
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