家族の真ん中で愛されて70年 海を渡ったピアノの演奏会、民家で

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演奏会後、ピアニストの犬飼新之介さん(手前中央)を囲み、談笑するリビー・マッシーさん(奥左から3人目)や孫(同4人目)ら=兵庫県朝来市で2025年7月26日午前11時12分、幸長由子撮影 拡大
演奏会後、ピアニストの犬飼新之介さん(手前中央)を囲み、談笑するリビー・マッシーさん(奥左から3人目)や孫(同4人目)ら=兵庫県朝来市で2025年7月26日午前11時12分、幸長由子撮影

 米国で、ある家族に70年にわたって愛され、日本にやってきたグランドピアノがある。「いつも家族の真ん中にあった」という。そんなピアノによる演奏会が、兵庫県朝来市の民家であった。来場者は、ピアノが家族と過ごしてきた日々に思いをはせながら、温かな響きに耳を傾けた。

 演奏会は、プロのピアニストの演奏を大きなホールにとどまらず家庭などに届ける企画で、7月26日にあった。同月下旬に朝来市で開かれた「ASAGO芸術音楽祭2025」(実行委、市主催)の一環で、第1弾の会場として市内の羽渕政善さん(72)宅が選ばれた。理由は、家族が5世代の間受け継いできたピアノがそこにあったからだ。

 ピアノは、1926年のスタインウェイ社製。前所有者のリビー・マッシーさん(75)=アイダホ州=によると、ニューヨークの高級ホテルのロビーに置かれていたが、いつしかリビーさんの家族が手に入れ、50年代にはバージニア州の祖母宅にあったという。その後、父が引き取り、父が亡くなった後、「家族の元に残したい」とリビーさんが相続した。

 ピアノはリビーさん家族にはなくてはならない存在だった。祖母はいつも美しいたたずまいでクラシック音楽を弾いていた。父はミュージカル曲などを披露し、家族を楽しませてくれた。「父が夕食後に弾いてくれて、子どもたちが周りで大合唱した。ピアノは家族の一員のようでした」と懐かしむ。

 ピアノが海を渡り、羽渕さん宅にやってきたのは2024年5月だった。リビーさんが6歳の孫に譲ったためだ。孫はリビーさんの息子と羽渕さんの次女との間に生まれ、東京で暮らす。ピアノを相続した際、リビーさんの家には既に愛用のピアノがあり設置場所に悩んでいたところ「『孫に受け継がせては』と孫の母親から提案があった」(リビーさん)といい、母親の実家の羽渕さん宅に置かれることになった。

 居間であった26日の演奏会には、ドイツと日本を拠点に活動し音楽祭に長年出演を続けているクラシックピアニスト、犬飼新之介さんが訪れ、「ラ・カンパネラ」(リスト作曲)などを約30分間披露した。音色は荘厳でいて時にやさしい。来日したリビーさんや東京から帰省した孫と母親、招待客ら約20人が聴き入った。

演奏会終了後、家族に愛されてきたピアノのそばであいさつするリビー・マッシーさん(左)=兵庫県朝来市で2025年7月26日午前10時42分、幸長由子撮影 拡大
演奏会終了後、家族に愛されてきたピアノのそばであいさつするリビー・マッシーさん(左)=兵庫県朝来市で2025年7月26日午前10時42分、幸長由子撮影

 終了後、リビーさんは「父や祖母の記憶がよみがえってきた。これからもピアノが家族と共にあってほしい。孫には遊びでいいので、弾いてもらえたらうれしい」と感激した様子で話し、優しいまなざしを孫に向けた。孫は照れながら、鍵盤に触れていた。母親は「子どもは、帰省する度に音を鳴らして楽しんでいる。これからもできるだけ長く使い続けたい」と語った。

 音楽祭実行委は、次回の音楽祭でも同様の取り組みをする予定だといい、家庭のピアノを募集している。【幸長由子】

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