
飲酒運転は取り返しのつかない悲劇をもたらす。これを知らしめた事故がある。福岡市で幼いきょうだい3人の命が奪われたあの事故だ。
それから19年。3児の母親である大上(おおがみ)かおりさん(48)は7月11日、私立博多高校(福岡市)にいた。体育館の壇上に立ち、背後には亡き3人が映し出された。事故について講演するのは初めてだ。集まった生徒ら約1200人に語りかけた。「私の高校生からの夢と、それがかなった日、失った日、この三つを話します」
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母が自問続けた「生かされた意味」 飲酒事故で失った長男との約束
「たくさん産んでいいですか」
大上さんはいつか母親になるのが夢だった。大家族に憧れ、夫の哲央(あきお)さん(52)のプロポーズに対する返事は「子どもをたくさん産んでいいですか」だった。
結婚し、長男の紘彬(ひろあき)ちゃんを妊娠すると、おなかをなでては「どんな子かな」と想像した。性別が分かると、服を選びに何度も店に足を運んだ。
講演では「待ちに待った陣痛が来た日も忘れません」と語った。2001年9月13日、失神するほどの痛みに耐えながら、深い幸福感に満たされたのを覚えている。「お母さんになるということは、命と命をつなぐことなんだ。赤ちゃんって、すごいなあ」
2年後の03年に次男・倫彬(ともあき)ちゃん、05年に長女・紗彬(さあや)ちゃんを出産。「子育てが大変というより、宝物が増えていく。幸せしかなかった」
深い幸福感、口癖は「時が止まればいい」
夜はベッドを横につなげ、親子5人で寝そべった。紗彬ちゃんの両脇に2人のお兄ちゃんがくっついて、3人で手をつないで眠る。その姿が目に焼き付いている。
「人は亡くなったらどこに行っちゃうの?」。きょうだいが増えるにつれ、紘彬ちゃんは「命」に興味を持つようになった。「天国だよ。3人に何かあったらお母さんは生きていけんけん、まだだめだよ」。そう伝え、抱きしめた。出産した病院の前を通ると、紘彬ちゃんは「赤ちゃんってどうやって生まれてくるの? 次に生まれてくる時は僕も一緒に見ていい?」と真剣なまなざしで問いかけてきた。大上さんは約束した。「いいよ。一緒に行こう」
少しずつ大人びていく紘彬ちゃん。七夕の願い事に「おかあちゃんといっぱい、いっしょにいたい」と書くほど甘えん坊の倫彬ちゃん。まだ「ママ」と言えず、よちよち歩きの紗彬ちゃん。「時が止まればいい」。それが夫婦の口癖だった。
絶望の光景が広がった「あの日」
「次に、失った日の話をします」。講演で「あの日」…
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