高知県立美術館で開催される「再考」展の狙いについて、安田篤生館長(62)に思いを聞いた。【聞き手・小林理】
――贋作(がんさく)購入を「逆手」に取ったような企画だと感じました。
◆贋作疑惑が分かった時(2024年6月)から、「臭いものに蓋(ふた)をする」という姿勢は取らないと決めていた。描いた本人が「贋作だ」と言っても、それだけでは結論は出せない。科学分析で、使われている絵の具が新しい時代のものだと確認されたことなどで、贋作と結論付けざるを得ないと判断した。手間をかけて得た結果を、県民を含めた多くの人に公開するにはどういう形が一番いいかを考え、展覧会という答えに至った。
――対象作品だけでなく、贋作を巡る歴史や背景も展示します。
◆贋作だけをお見せするのではなく、広い意味で贋作というものについて考える機会にしたいという趣旨だ。不幸にしてだまされてしまった我々自身への戒めと反省も込めている。
――「真作かどうか分からない」作品もテーマの一つになっています。
◆今回のように悪意を持って制作された贋作もあるが、長い美術の歴史の中では、悪意がなくても本物ではなかったという例は多々ある。描いた人の情報が分からなくなって「詠み人知らず」になったり、模写が真作とされたり、弟子が描いたものが師匠の作とされたり。そういう例も含めて、「本物と偽物」という昔からあるテーマについて、皆さんと勉強し直したい。
――これまで贋作と判明した絵を見て、感銘を受けた人もいたはずですね。
◆誰が描いたか分からなくても、自分の気持ちに響くものがあれば、それはその人にとってはいい作品なわけだ。「詐欺」という悪い動機であの絵が描かれたにしても、あの絵を見て「いいな」と思った人がいるのであれば、作品としての良さがあるのかもしれない。それは音楽など芸術全般に言えることだ。そういうところも含めて、芸術の奥深さを考えるきっかけの一つにしたい。
贋作の取得を防ぐには
――美術館はどうすれば贋作の取得を防ぐことができるのでしょうか。
◆美術館の学芸員なら、大抵のものは見てすぐ本物かどうかは分かる。しかし、ごくまれに判断がつきかねるケースがある。今回もそもそも「大した絵じゃない」と思っていたら購入していない。作者が確定できなくても、芸術的に価値があると判断すれば、コレクションとして持つことは他の美術館でもあることだ。もちろん、取得後に調査し、できるだけ真実を探ろうとはする。確証はないけれども、否定する証拠もない場合、「伝○○」として後世に残し伝えるのが誠実な態度だ。
――同じ作者による贋作の取得が同様に判明した徳島県立近代美術館は、5~6月に贋作を無料で展示しました。高知では有料展示です。その違いは?
◆展覧会として、対象作品も含めて「贋作」というテーマの展示を構成してお見せする。他の作品も10点ほど展示する企画展なので、観覧料は頂戴するということだ。
――改めて贋作を購入してしまったことへの思いを。
◆贋作をだまされて買ってしまったという事実はもう消せない。その事実を認めた上で、美術、美術館の歴史の中でこういう事件があったと記録し、きちんと伝えていかないといけない。
――最後に。贋作者に対して言いたいことはありますか?
◆彼の話が広まればアドバンテージを与えてしまうように感じる。もう名前も口にしたくない。
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