「コスパいい学習は危険」今井むつみ氏 中学受験で学力喪失防ぐには

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認知科学、言語心理学、発達心理学が専門の今井むつみ・慶応大名誉教授=2025年7月、松山文音撮影
認知科学、言語心理学、発達心理学が専門の今井むつみ・慶応大名誉教授=2025年7月、松山文音撮影

 何度教えても間違える。

 塾に通わせても、授業が身についていない。

 子どものテストや模試の結果を見るたびに、こんな疑問や不安を持つことはないだろうか。

 「受験テクニックをたたき込まれ、コストパフォーマンスを意識した勉強ばかりしている子どもは、どこかで学力が頭打ちになるリスクがとても高いと思います」

 学力停滞の原因について認知科学で分析した「学力喪失―認知科学による回復への道筋」(岩波新書)などの著作が話題の今井むつみ・慶応大名誉教授は警鐘を鳴らす。

 では、子どもが苦手分野でつまずいたとき、親はどんな手立てを打てばいいのか。

 今井さんは「『スキーマ』に目を向けてみて」と呼びかける。スキーマとは――。

  <主な内容>
 ・子どもはなぜ学習でつまずくのか
 ・「1」が理解できない子どもたち
 ・スキーマなき学習は「砂上の楼閣」
 ・「子どもに『点』を与えて」その意味は?
 ・学ぶ意欲を損なう親のNG行動とは
 「令和のリアル 中学受験」第27部は9月下旬に公開予定です。

小学生の学習内容「抽象的で難しい」

 「まず、認知科学の観点でみると、小学生が学ぶ内容は抽象的で難しい。親や教員は、その前提をきちんと理解しておくことが大切です」

 たとえばこんな問題を小学生に出してみる。

 <えりさんは、山道を5時間10分歩きました。山を登るのに歩いた時間は2時間50分。山を下るのに歩いた時間は?>

 これを「510分」「250分」に変換して計算した子がいれば、時間の単位が理解できず、つまずいていることが分かる。

 このようなつまずきの根本的な原因を明らかにするために、今井さんは広島県教育委員会と共同で「たつじんテスト」を開発した。

 このテストは、学習の基盤となる数の知識や思考力、言葉の運用力などを測り、子どもたちのつまずきの根本的な原因を現場の先生たちが見て取ることができるように作られた。

 このテストは特定の学年の特定科目を学ばなければ解けない問題はなく、学習の前提となる知識や思考力があれば、答えを出せる内容だ。

 テストの主な目的はつまずきの内容把握で、点数化や順位付けはない。

 たつじんテストの結果から分かったことは、多くの子どもたちが、数という記号を操作して答えを出すことに終始しがちで、分数や割合の基本概念や、方程式の意味が分かっていないケースが多いということだ。

 「そもそも、子どもたちの多くは数の概念を理解できていないんです」と今井さんは言う。

「1」を理解できない子どもたち

 例として挙げるのが、「1」の概念だ。

 「1匹の猫」は目に見えるが、1という概念は目に見えない。そのため、一部の子どもは「数を数える時に一番最初に来る数字」というふうに、数の羅列…

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