
松山市中心部の伊予鉄道・松山市駅(市駅)前の整備に伴い、駅前を通る路面電車の旧軌道が23日夜、役目を終えた。隣接する新軌道に「バトンタッチ」するため撤去された軌道は、78年にわたり大空襲で壊滅した同市中心部の復興とともに歩み、松山の発展を見守ってきた。旧軌道の跡地には交流広場を設ける計画で、まちのにぎわいに向けた新たな「1ページ」が始まる。
撤去された軌道は、市中心部が焦土と化した「松山大空襲」から2年後の1947年、松山城お堀端の南堀端駅から市駅をつなぐ軌道の一部(約100メートル)として新設された。伊予鉄道の人気観光列車「坊っちゃん列車」の原型で、夏目漱石の小説「坊っちゃん」に「マッチ箱のような汽車」との形容で登場する汽車も走っていた。

同市中心部には、四国の他都市とを結ぶJR松山駅と、市民から「市駅」と呼ばれて親しまれている松山市駅があるが、市駅は市中心部を走る路面電車、市郊外とをつなぐ郊外電車、路線バスと高速バスが発着する交通の結節点で、人の往来が最も多い。一方で、路面電車の乗降場は車道に囲まれ、道路を横断しないと郊外電車に乗り換えができず、周辺はバスやタクシー、一般車両で混雑するなど交通に課題があった。

このため同市は、2023年度に軌道の位置を南へ約15メートル移動させ、バス乗り場とタクシー・一般車両の乗降場をそれぞれ東西のロータリーに分けて集約▽道路を横断せずに郊外電車と路面電車が接続できる動線づくり▽市駅前に広場を新設―などの内容の整備実施計画を策定。工事費は計約21億円を見込む。
路面電車や郊外電車、バス事業を展開する伊予鉄グループ(同市)は「(旧軌道跡の)広場整備がまちづくりの起爆剤になる」(広報担当者)とし、年間を通じたイベント開催などで「にぎわい空間」の創出を期待する。

広場は26年中の完成を目指す。同市交通拠点整備課の林昌宏主幹は「市民の意見も積極的に取り入れ、広場の活用をまちの活性化につなげたい」と話している。【狩野樹理】
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