「光害」のために野鳥が世界中で夜更かしをするようになったと、米南イリノイ大の研究チームが発表した。各国で記録された大量のさえずりデータと光害をとらえる人工衛星画像とを比較し、一日に鳴く時間が1時間近く長くなったという。活動時間の長期化は果たして野鳥にとってプラスかマイナスか。
光害は、地球の表面積の23%に影響を与え、その範囲は今なお拡大している。天体観測に支障をきたしているほか、人間や野生生物の生活リズムを乱していることが指摘されている。しかし、野鳥については調査地域や種が限られ、「早く鳴き始めるようになった」「影響はほとんどない」などと専門家の間で見解が分かれているという。
研究チームは、地球規模でデータを集める必要があると考え、長年、鳴き声などを常時記録しながら数千種類の鳥の種類を判定できる機器を使った市民参加型の観測ネットワークに注目した。そこで2023年3月から1年間、市民らが欧米を中心に7824地点で観測した1億8100万回分のデータを収集。このうち、583種類の昼行性野鳥の朝の鳴き声開始データ260万件、夕方の鳴き声停止データ180万件を分析した。
その結果、明るい場所に生息する野鳥では暗い場所の野鳥に比べ鳴き始める時間が18分早まる一方、鳴き終える時間は32分遅くなっていたことが分かった。また、目が大きかったり巣が開放的だったりと光にさらされやすい野鳥ほど影響を受けていた。
今後の影響については、餌探しや交尾の時間が増える一方、短い睡眠時間による健康ダメージが予想される。研究チームは「途上国や高緯度でのデータは不足し、プラスに働くかマイナスに働くかは不明」としている。その上で「夜の暗闇を取り戻すことは21世紀の自然保護における重要な課題だ」と訴えている。
鳥類の調査研究に取り組むNPO法人バードリサーチの植田睦之さんは「日本でも夜が明るくなり、ツバメやハヤブサが夜間に採食するなどの変化が確認されている。影響の度合いは種によって差があり、全体像をとらえた意義が大きい。生態系全体にどう影響していくのか長期的な視点で調べることが重要だ」と話す。
成果は米科学誌サイエンスに掲載された。【田中泰義】
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