職場の選択肢広がらず 脳性まひの女性、詩に込めた「心の叫び」

Date: Category:速報 Views:3 Comment:0
在宅ワークに励む細野佐織さん=本人提供 拡大
在宅ワークに励む細野佐織さん=本人提供

 障害がある人がつづった詩に曲を付け、ステージで歌う「わたぼうし音楽祭」。50周年の節目となる8月3日のステージが目前に迫った。社会への願いを乗せた数々の曲は、風に吹かれるわたぼうしのように世界に飛び立ち、聴き手の意識を変えてきた。自分らしく生きられる社会の実現に必要なものは何なのか。記念のステージで演奏される入選作の作詩者や作曲者に加え、音楽祭を主催し、半世紀にわたって支え続けたボランティア団体「奈良たんぽぽの会」の歴代会長に思いを聞いた。

苦労から四半世紀「世の中は変わらず」

 「3月で閉鎖します」。2024年8月、10年働いていた就労継続支援B型事業所からの突然の通告。10年ぶりの就職活動は想像以上に困難を極めた。

 苦戦した就活の実体験と社会への怒りをつづった「心の叫び」を作詞した細野佐織さん(43)=静岡市。細野さんは生まれつきの脳性まひで、四肢まひ状態。基本的に移動する際は車いすが必須のため、働く場所も車いすの送迎付きが条件だった。

 約半年で新たな職場は見つかるのか。職員らが探してくれたが、条件に合う場所はほとんどなかった。「送迎付き」と書かれていても、実際には車いすから自分で移動して作業場所に座ることを求められた。隣の富士市で探してみても、遠いので送迎できないと断られた。親も高齢になり、頻繁な送迎も頼めない。苦戦する中、思い出したのは高校3年時の就活だった。

 当時も職場を探すのに苦労した。気軽に就職相談できる場所すらなかった。自宅から最寄りのB型事業所からは設備が整っていないと断られる始末。卒業してから数年は、在籍した施設の手伝いをした時期もあったが、家にいる時間も長かった。

 苦労の原点とも言える高校3年時の就活から四半世紀。「なぜ何度も就活で大変な思いを繰り返さないといけないのか。結局、世の中は変わっていない」。職業の選択肢がちっとも広がらない社会に失望した。

 最終的に三重県の事業所を紹介してもらい、現在は在宅ワークをしている。久々のパソコン作業に戸惑いもあるが、ワードで文章を記入したり、エクセルでリストを作ったりしている。スタッフも優しく現状に不満はないが「働ける場所はここしかなかった」と話す。

 わたぼうし音楽祭には20年近く応募していて、今回が初の入選となった。長年の友人からは率直に「感情の殴り書き」と評された詩。「今までの詩はきれいに書こうとしていたのかもしれない。『リストラされて就職活動うまくいきませんでした、ふざけるな』という詩が一つくらいあったっていいんじゃないかと思いながら書いた」と振り返った。

 今後、あとどれくらい働けるのか、年齢とともに体も動かしにくくなり、将来を不安に思う日々が続く。「もっと好きなことができて納得いく形で就労人生を終えたい」。詩の中で「いつか たくさんの候補から望んだ職場(ばしょ)で働ける そんな喜び感じたい」という一節がある。細野さんは「いつか」ではなく、「一分一秒でも早く」そんな社会が実現することを切に望んでいる。【木谷郁佳】

「心の叫び」

思いもしなかった

現在(いま)の職 失うなんて

10年振りの就活 思い知った現実

車椅子受け入れ 送迎あり 魅力的でも

「自分で座席座って」「遠いから無理です」

高校3年 進路を決める時も

ネックだったの ハード面が

一体 私 幾つ 年齢(とし)を重ねたら

ありのままで働ける

そんな社会になるだろう?

それとも こんな 私

社会には必要ない?

心の叫び気付いてよ

涙 溢れて止まらない

それでも何とか パソコンできるならと

在宅ワーク 決まったけど…

やっぱり 私

いつか たくさんの候補から

望んだ職場(ばしょ)で働ける

そんな喜び感じたい

そしたら きっと もっと

前向きに生きていける

心の叫び届いてよ

未来 変わっていくように

Comments

I want to comment

◎Welcome to participate in the discussion, please express your views and exchange your opinions here.