かつて「くまモン」や「ぐんまちゃん」が優勝したご当地ゆるキャラの人気コンテスト「ゆるキャラグランプリ(GP)」。第10回となる2020年で幕を閉じたが、実は23年から「ゆるバース」と名前を変えた後継イベントが毎年開催されている。今年は8月1日からオンライン投票が始まるという。ブーム終焉(しゅうえん)後のゆるキャラ選挙は今どんな感じなのか。
決戦投票は9月に東京で
「8月1日から、ゆるバース(旧ゆるキャラグランプリ)の投票がはじまるよ! みんな応援よろしくね」――。千葉県東金市のマスコットキャラ「とっちー」は7月29日、X(ツイッター)で投票を呼びかけた。
今年は8月にオンライン投票が始まり、9月27日まで1人1日1票を投じられる。今回は自治体へのふるさと納税1000円分などで1票を投じられる仕組みも試行。来場者による決選投票は9月27、28両日に東京都墨田区の隅田公園で開かれる。
GPは東日本大震災が起きた11年に始まった。ふるさとをPRするゆるキャラで、日本全体を盛り上げようというコンセプトだった。
くまモン人気でピーク時は1700体
当時はGP初代王者の「くまモン」(熊本県)や「ひこにゃん」(滋賀県彦根市、GPは不参加)らが全国区で人気を集め、GP自体の注目度も高まった。
ピークの15年には「ご当地」と「企業」の2部門に計1727体が出場。このうち、自治体などがエントリーする「ご当地」は1092体に上った。全国の市区町村数が約1700だから、そのブームの盛り上がりぶりがうかがえる。
だが、自治体が投票用のフリーアドレスを大量に作り、組織票が疑われる問題が起きるなど、あまりの過熱ぶりに批判も起きた。その後は参加キャラも減り、最後の20年は計691体(ご当地は397体)だった。
「元々ゆるキャラグランプリ自体がしゃれみたいなもの。あんなに大人が必死になるなんて、想定していなかった」。初回からGPに携わり、ゆるバース製作委員会の会長も務める西秀一郎さん(61)はそう振り返る。
「ゆるバース」…メタバースの導入も
東京オリンピック・パラリンピックが開催される予定だった20年で一度区切りをつけたが、その3年後、「ゆるバース」を始めた。
メタバース(仮想空間)上でゆるキャラと触れ合える仕組みを導入するなど、「アフターコロナの地方創生」を意識したという。
リアルな決選投票の会場も設けつつ、キャラの着ぐるみを持たない団体でもイラスト1枚で出場できるようになった。
だが、ゆるキャラブームの終焉や名称変更による知名度ダウンなどが相まって、参加数は激減。初回の23年は210体、24年は147体しかなかった。
25年は298体が参加する。前年に比べ2倍だが、それでもGP最盛期の2割に満たない。約半数が企業キャラで、かつてGPに出場したキャラの多くは、ゆるバースに参加していない。
「もう競う必要なし」の一方で……
北関東のある自治体は、埼玉県羽生市で開催される「世界キャラクターさみっと」(旧ゆるキャラさみっと)には参加を続けている。担当者は「市の予算も限られており、現状では『ゆるバース』の方が知名度も低そうなので……」と明かす。
この担当者はこうも言う。「地元ではキャラもある程度浸透してきた。今さら全国的な選挙に出て順位を競わせる必要もない」
そうなると「ゆるバース」に参加する自治体はどんなテンションなのか。
三重県南伊勢町の「たいみー」は顔はミカン、体はタイをモチーフにしたキャラクター。ゆるキャラブームまっただ中の11年に誕生し、13~20年のGPに毎年参加。最高順位は151位だった。
それでも、2年ほど前からLINEスタンプの販売やグッズ展開も始め、地元キャラとして定着が進んできたという。
最近は、たいみーへの年賀状が県内外から100通近く届くなど、人口1万人余りの町のゆるキャラとして奮闘している。
町観光商工課の中村一裕主査は「今こそ選挙に出るタイミングだと判断した。出るからには10位以内に入りたい」と期待する。
ただ、予算の都合もあり、都内で開かれる決選投票には参加しない。町のフェイスブックでも「おともだちができることを楽しみにしているたいみーを、ゆるーく応援してあげてくださいね♪」と、肩肘張らずに応援を呼びかける。
地方創生を考える場として
ゆるバースを取り仕切る西さんも「『全国区にならずとも、地元で輝ければいい』という時代でもある。ゆるキャラのイベントも全国で増えており、年1回のイベントにだけ注力しなくてもいいと思う」と、それぞれの判断に理解を示す。そして西さんは言う。
「ブームは本来どうでもよいことだった。地方創生を考える自治体や企業が集まる場として、ゆるバースはこれからも寛容でゆるくあり続けたい」【尾崎修二】
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