
「炊」「活」に続き、「焼」の新たな鯛(たい)めしメニューを楽しんで――。養殖マダイの生産量日本一の愛媛県が、県の中部と南部地域で親しまれる鯛めしを、東部地域でも食文化の目玉にしようと、焼いたタイを使った洋風の新たな鯛めしメニュー「東予・洋風焼き鯛めし」を開発した。炊・活・焼――と3種類の鯛めしによる相乗効果で、愛媛の鯛めし文化を全国に発信する。
愛媛県は、2023年の養殖マダイの生産量が全国1位(3万7893トン)。同年の天然マダイの漁獲量も全国4位(1242トン)で、国内有数のタイの産地として知られる。
かつて「伊予国(いよのくに)」だった愛媛県では、タイの食文化が各地域に根付く。松山市などの中予地域と今治市では、下処理したタイを丸ごとや、大きな切り身にして米と一緒に「炊」いた鯛めしが有名。宇和島市などの南予地域では、「活」きのいい新鮮なタイの刺し身に、だしを効かせたしょうゆと生卵をかけて食べる鯛めしが人気だ。

いずれも郷土料理として古くから地元住民に親しまれてきた。県きっての観光名所の松山城周辺では「炊」「活」双方の鯛めしを提供する店がひしめく。
一方で、西条市など、今治市を除く東予地域では、鯛めし文化はあまり広がっていない。かつて日本有数の銅山として栄えた別子(べっし)銅山(新居浜市)など、鉱山開発が盛んだったこのエリアには、人とともに全国から食が集まり、明治から昭和にかけて洋食文化がいち早く根付いたという。
県東予地方局地域政策課によると、豊後水道の愛媛県側の宇和海や、今治市に面した来島海峡がマダイの主要な漁場となっている。東予地域の東部では相対的にタイの漁獲量が少なく、他の食材を生かした食文化が定着したため、鯛めし文化が広がらなかったのではないかと推察される。

そんな中、24年に民放のテレビ番組で開催された全国ご当地料理グランプリで、西条市の老舗洋食店「マルブン」の「五代目鯛めし」が1位を獲得。県は、ご飯の上に焼いたタイが載り、焦がしバターしょうゆが食欲をそそる「五代目鯛めし」から「焼」の着想を得る。マルブンや地域の事業者と共に新たな「東予・洋風焼き鯛めし」の開発に着手した。
洋風焼き鯛めしの定義は、県産のマダイを使い、①焼いたタイが形として見える②米飯を使用③洋風でタイの風味を生かす――の三つ。元祖であるマルブンを含めた西条、新居浜両市の9事業者が新メニューを検討し、タイのあら汁で炊いたバターライスの上に焼いたタイの切り身が載るドリアや、マダイのソテーが目を引くチーズリゾットなど、各事業者が腕と独創性を競った計9品が完成した。
7月31日に松山市であった試食会で、中村時広知事は「工夫を凝らした素晴らしいメニューが並びうれしい。新たな食文化として東予地域に根付かせる」と意気込んだ。マルブン社長の真鍋一成さん(38)は「同じものは一つもない。知っていただき食べて楽しんでほしい」と期待する。
「焼」鯛めしの9品を提供するのは、マルブン▽アルバトロス▽うしろのしょうめんだ~れ▽カフェアルル▽つじ丸(いずれも西条市)▽ADAM&EVE▽がすやのごはん▽リーガロイヤルホテル新居浜▽若宮食堂(いずれも新居浜市)。【狩野樹理】
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