排外主義の問題が世界的に広がっている。第二次ドナルド・トランプ政権下のアメリカでは、移民の逮捕や強制送還が相次いだ。外国人への攻撃的な言説が、メディアやSNSを通じて世界的に蔓延し、いまや“自国ファースト”の風潮はとどまるところを知らない。
映画『 入国審査 』(8月1日公開)は、スペイン・バルセロナからアメリカ・ニューヨークにやってきたディエゴ&エレナのカップルが、理不尽かつ不合理な入国審査にさらされる心理スリラーだ。南米ベネズエラ出身のディエゴとスペイン出身のエレナは、事実婚のカップルとして新天地での再出発を夢見ていたが、密室での尋問がすべてを塗り替えていく……。

『入国審査』 ©2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE
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実際に入国時に足止めされた恐怖の体験がもとに
世界の映画祭を席巻した本作を手がけたのは、今回が長編監督デビューのアレハンドロ・ロハス&フアン・セバスチャン・バスケス。撮影わずか17日間、製作費65万ドルという低予算ながら、世界の「今」を的確にとらえた。7月上旬、ロハス&バスケスが揃って来日。映画のテーマがますます切実なものとなる今、作品に込めた思いと、不寛容な社会に対する願いを語った。
ロハス&バスケスはともにベネズエラ出身。創作のきっかけとなったのは、実際にアメリカに入国しようとした際、税関で足止めを受け、別室での二次審査を受けたことだった。
ロハス 決して良い経験ではありませんでした。尋問を受け、出身地を問われ、一方的に判断される――その経験をもとに、見たことのない物語を描けるかもしれないと考えたことがすべての始まりでした。
バスケス 物語を作ること自体がセラピーのようなプロセスでした。自分たちの体験と恐怖を伝えたいという一心で、最初は映画になるとは思わないまま執筆を始めたんです。僕たち自身と周囲のエピソードを織り交ぜていくうちに、60ページの草稿ができました。
ロハス 空港職員の対応はケースバイケースです。この映画で描いたのは、「入国理由を説明せよ」と命じ、実際は理由を知っていながら一から説明させ、ある段階で攻撃に転じる戦略。入国者を理由もなく待たせて不安にさせるのも戦術で、多くの人々が経験していることですが、密室で起きているがゆえ、これまではほとんど知られていませんでした。
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