2007年まで使われた特攻隊の飛行学校舎 祈念館5年の「戦争遺産」

Date: Category:社会 Views:1 Comment:0

復元保存された熊谷陸軍飛行学校桶川分教場の兵舎棟は、平和祈念館のメイン施設になっている=埼玉県桶川市川田谷で2025年7月13日午後3時47分、萩原佳孝撮影 拡大
復元保存された熊谷陸軍飛行学校桶川分教場の兵舎棟は、平和祈念館のメイン施設になっている=埼玉県桶川市川田谷で2025年7月13日午後3時47分、萩原佳孝撮影

 埼玉県桶川市の荒川沿いの高台に建つ桶川飛行学校平和祈念館は、4日で開館5年を迎えた。「時代に迫られ、生きられなかった人たちがいたこと。戦争のない平和が何より大切だということ。この建物が残り、それを未来へ伝えていくことができる」。特攻隊長だった父を亡くした同市の臼田智子さん(81)は、そう話す。

 桶川飛行学校は戦時中、熊谷陸軍飛行学校桶川分教場として設立され、少年飛行兵らを養成した。戦争末期には特攻隊の訓練場に。兵舎などが近年まで奇跡的に残り、遺族や関係者らの思いを受けて復元整備され、平和を伝える施設に生まれ変わった。当時の雰囲気を色濃く残す「戦争遺産」には年間約1万人が訪れる。

 建物が残ったのは戦後、海外からの引き揚げ者の寮となり、2007年まで利用されたためだ。市は老朽化した建物を取り壊す方針だったが、「旧陸軍桶川飛行学校を語り継ぐ会」が保存を求める約1万4000筆の署名を市に提出し、流れが変わった。

 同会は05年に設立され、語り部活動などを行っていた。臼田さんは当時会長だった。13年に保存を提言した市の検討委員会は「旧陸軍飛行学校が現存する全国唯一の遺構で、歴史的・文化的価値は極めて高い」と指摘。「訓練生たちの苦悩や心の葛藤など、多くの人間模様がここで展開された史実も見逃せず」とも評価され、16年に市の有形文化財に指定された。

 臼田さんの父・伍井(いつい)芳夫さんは熊谷飛行学校の教官から特攻隊長となり、1945年4月1日、鹿児島県の知覧特攻基地から沖縄に出撃した。32歳。桶川の自宅に妻園子さんと3人の子がいた。

展示されている父の遺書を見る臼田智子さん=埼玉県桶川市川田谷の桶川飛行学校平和祈念館で2025年7月18日午後2時31分、萩原佳孝撮影 拡大
展示されている父の遺書を見る臼田智子さん=埼玉県桶川市川田谷の桶川飛行学校平和祈念館で2025年7月18日午後2時31分、萩原佳孝撮影

 「教え子の戦死の知らせを受け取ることが多くなり、父は心を痛めていたそうです。それで一緒にいくと決めたんだろうと母は話していました」と臼田さん。ショックで園子さんは母乳が止まり、乳飲み子だった長男は3カ月後に亡くなった。「父から託された長男を失った母の悲しみは本当に大きかったと思います」

 臼田さんは、亡くなった母から「これは大切なものだから」と小さな包みを預かっていた。父が家族にあてた遺書や手紙などだった。それをもとに2003年、「特攻隊長伍井芳夫 父と母の生きた時代」を出版した。

 ゆかりの飛行学校が桶川に残ることを臼田さんは長く知らなかった。「父が歩いた道や教えた場所を残したいという思いもありました」。平和祈念館には、伍井さんが幼い子にあてた2通の遺書(複製)も展示されている。次女の臼田さんは当時1歳。「父の顔も、声も知らないけれど、いろいろな方から『お父さんは優しかった』と聞かされたのは、うれしかった」という。

 臼田さんは、県内外の学校などで父や戦争について語り続けている。5月に知覧で行われた特攻隊員の慰霊祭では遺族を代表し「命の尊さを語り継いでいく」とあいさつした。

 「母は『戦争は美化できない』と話していました。でも『美化しないと話せない』という人もいます。特攻はあってはいけない『任務』でした。最後まで戦い日本を残すとの思いだったのでしょう。でも、あまりに悲しすぎる。戦争では、起きてはいけないことが起こる。学生さんにここに来ていただき、10代だった少年飛行兵と同じ年齢で、自分ならどうしただろうと考えてほしい。戦争の恐ろしさを考えていただければと思います」。臼田さんはそう願っている。【萩原佳孝】

復元された兵舎棟の寄宿室=埼玉県桶川市川田谷の桶川飛行学校平和祈念館で2025年7月18日午後0時51分、萩原佳孝撮影 拡大
復元された兵舎棟の寄宿室=埼玉県桶川市川田谷の桶川飛行学校平和祈念館で2025年7月18日午後0時51分、萩原佳孝撮影

飛行学校と平和祈念館 

 分教場は1937年開校。少年飛行兵や学徒出陣の特別操縦見習士官ら1500人以上が学んだ。45年2月に特攻隊の訓練場になり、特攻隊員を知覧に送り出した。

 市文化財には兵舎棟など5棟が指定され、解体後、元の木材を再利用して復元された。祈念館では当時の写真や装備品などを常設展示し、寄宿室をまるごと再現した部屋もある。現在は訓練生の日誌などを企画展示。9月からは、知覧特攻平和会館の出張展示も予定されている。

Comments

I want to comment

◎Welcome to participate in the discussion, please express your views and exchange your opinions here.