猛暑にゾクリ 極めつき日米ホラー2選 趣向と技巧満載

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「近畿地方のある場所について」©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
「近畿地方のある場所について」©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

 命の危険さえ感じさせる記録的な猛暑が止まらない。外出時に熱中症のリスクを避けるべく、手軽な屋内レジャースポットの代表格、映画館に足を向ける人も少なくないだろう。

 そんなとき背筋がゾクリのホラー映画をチョイスすれば納涼効果は倍増。今こそ見るにふさわしいアメリカ発と日本発の良作ホラー2本を紹介したい。

「アンティル・ドーン」
「アンティル・ドーン」

プレステゲーム実写化「アンティル・ドーン」

 ハリウッド映画「アンティル・ドーン」(2025年)は、PlayStation5の人気ゲーム「Until Dawn 惨劇の山荘」の実写映画化だ。

 物語は失踪した若い女性を捜している5人の若者グループが、かつて観光案内所だった田舎の山荘を訪れるところから始まる。ところが5人は、どこからともなく現れた異形の殺人鬼にあっけなく殺されてしまう。すると5人はスタート地点に引き戻されて意識を取り戻す。それは“夜明け”まで生き延びないと脱出できない“悪夢のタイムループ”の始まりだった……。

 ストーリーの設定は単純明快。主人公クローバー(エラ・ルービン)を含む若者5人は、出発地点である山荘とその周辺を探索し、幾多の謎を解きながら死のタイムループをサバイブしようと奮闘する。

「アンティル・ドーン」
「アンティル・ドーン」

とてつもなく凝った趣向が

 ところが設定のシンプルさとは対照的に、本作にはとてつもなく凝った趣向が盛り込まれている。5人の死によってリセットされるたびに、映画の世界観が変わり、異なるサブジャンルのホラーへと変容していくのだ。

 例えば、山荘にやってきた5人を最初に襲うのは、つるはしを手にした仮面の殺人鬼だ。仲間の一人を殺された若者たちは、物陰などに身を隠し、息を潜めて殺人鬼をやり過ごそうとするのだが、ひとりまたひとりと見つかって容赦なく血祭りに上げられてしまう。

 ずばりこれは1980~90年代にハリウッドで大流行した「13日の金曜日」(80年)、「スクリーム」(96年)、「ラストサマー」(97年)などの“スラッシャー映画”の要素を今に受け継いだものだ。

「アンティル・ドーン」
「アンティル・ドーン」

スラッシャーからモンスターまで

 しかし次なるステージでは様相が一変し、オカルト風味の“スーパーナチュラル”な怪現象の嵐が吹き荒れる。その後もステージごとに登場人物の人体が損壊する“ボディーホラー”や、民間伝承の悪霊ウェンディゴをゾンビのように具現化させた“モンスターホラー”などに変貌。

 通常、これらの異質なサブジャンルが1本の映画内に同居することはありえないが、本作はタイムループを口実にして多様なサブジャンルの“盛り合わせ”を実現。その意味では実にお得なホラー映画である。

 加えて本作は、特殊メークや視覚効果を駆使した残虐描写の強度と生々しさがすさまじく、R18+指定となった。「ライト/オフ」(16年)、「アナベル 死霊人形の誕生」(17年)のデビッド・F・サンドバーグ監督が、久々に自身のルーツであるホラーに回帰したこの作品、まさに怒濤(どとう)の勢いで予測不能の恐怖がさく裂する快作となった。

「近畿地方のある場所について」©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
「近畿地方のある場所について」©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

ネット小説原作「近畿地方のある場所について」

 「近畿地方のある場所について」(25年)は小説投稿サイト「カクヨム」に投稿されるや大反響を呼び、書籍版もベストセラーになった背筋の同名小説が原作。

 とあるオカルト雑誌の編集者が行方不明となり、部下の若手編集部員、小沢(赤楚衛二)とフリーのオカルトライター、瀬野(菅野美穂)が調査を開始する。消えた編集者が探っていたいくつかの怪事件を検証した瀬野と小沢は、それらの謎が近畿地方の“ある場所”を指し示していることに気づくのだが……。

「アンティル・ドーン」
「アンティル・ドーン」

ヒットメーカーの白石晃士監督

 本作のユニークな点は、こつ然と失踪した編集者が残したさまざまな映像資料を、実録風ホラーの定番アイテムであるファウンドフッテージとしてビジュアル化していることだ。

 林間学校を楽しんでいた中学生たちの集団ヒステリー事件、心霊スポットを訪れた動画配信者のカメラに映り込んだ超常現象。「貞子vs伽椰子」(16年)、「サユリ」(24年)や「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズ(12年~)で知られる白石晃士監督は、この分野のヒットメーカーであり、20年以上前からモキュメンタリーの様式をホラーに取り込んできたスペシャリストでもある。

「近畿地方のある場所について」©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
「近畿地方のある場所について」©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

菅野美穂の演技力も貢献

 ビデオテープのノイジーなアナログ映像から、今どきのクリアな配信用デジタル動画まで、撮影された時代背景も映像の質感も違う心霊フッテージをつるべ打ちする前半は圧巻の出来ばえ。

 白石監督の手腕が遺憾なく発揮されたこのパートは、過去数十年における日本の“都市伝説の歴史”を凝縮したかのような、濃密にしてスリリングなシークエンスに仕上がっている。

 恐怖と笑いが背中合わせの“やりすぎ”な演出も白石監督の持ち味だが、素人探偵というべき瀬野と小沢が恐怖の根源に迫っていくミステリー仕立てのドラマパートでは、抑制が利いたシリアスな語り口を披露。とりわけ菅野美穂の卓越した演技力を生かし、終盤に“意外な真実”を明かしていく描写もさえ渡っている。

「近畿地方のある場所について」©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
「近畿地方のある場所について」©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

Jホラーのまとわりつく怖さ

 初期の代表作「ノロイ」(05年)に回帰したようなその作風は実にクオリティーが高く、Jホラーの新たな話題作として海外でも注目されるだろう。

 今回紹介した2作品は、恐怖のテイストがまったく異なっている。殺人鬼や怪物が次々と襲いかかってくる「アンティル・ドーン」は、いかにもアメリカンホラーらしい即物的なジャンプスケアやショック描写が満載。

 見る者を都市伝説の闇へと誘う「近畿地方のある場所について」は、“じっとりと、まとわりついてくるような”としばしば形容されるJホラー特有の粘っこい恐怖が渦巻いている。どちらのホラーをより怖いと感じるか、納涼ついでに見比べてみては?(高橋諭治)

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