
米国による原爆投下から80回目の「原爆の日」を迎えた6日、東京都内でプロ野球・広島東洋カープの黄金時代を支えた「ミスター赤ヘル」の山本浩二さん(78)が、市民団体が主催する「原爆展」で登壇した。被爆2世でもある山本さんが、被爆者の兄への言葉を紡ぐと、来場した約280人が拍手で応えた。
浩二さんが登壇した原爆展は、江戸川区在住の広島・長崎の被爆者で作る団体「親江会」が同区で5日から開催している。7歳の時に被爆し、親江会の会長を務める兄の山本宏さん(87)らとともに、約40分対談した。
浩二さんは戦後生まれ。幼少時代の浩二さんは、空き地で竹バットで三角ベースをしたりして遊んだり、近くのお宮であった相撲大会で優勝して賞品を家に持って帰ってきたりする活発な子だった。親や兄から被爆体験を聞かされたことは全くなく、「知識としてはあるが、体験は知らない」環境で育った。
カープ入団後、原爆ドームに近い広島市民球場でプレーした。「野球しかやっていないのだから、平和のために、野球を通して被爆者の方に喜んでもらえるようなプレーをしようという気持ちをいつも持っていた」と明かし、初優勝の直後に広島に凱旋(がいせん)した時の様子などを振り返った。

被爆体験を兄の宏さんから聞くようになったのは、宏さんが親江会の活動に本格的に関わるようになった数年前だという。今回の原爆展で展示されている高校生と被爆者が共同制作した絵画作品から、戦争をなくしていきたいというメッセージを感じたとも語り、続けて声を高めた。
「兄は昔から無口で口下手。そんな兄がこのような活動をすることが、本当に信じられない。被爆(の実相)を風化させてはいけないとの思いがあると感じる。そんな兄を尊敬します」
かつて500人いた江戸川区内の被爆者が最近、100人を切ったという。宏さんは対談の最後に「毎年、仲間が10人ぐらい亡くなっていってしまう。私も最後に、何かを残したいとの思いだけで、今、動いている」と語った。
原爆展は都営地下鉄新宿線船堀駅から徒歩1分、タワーホール船堀(江戸川区船堀4)で10日まで。被爆者の証言や映画上映、画家の丸木位里・丸木俊夫妻の作品「原爆の図」(複製)の展示など。入場無料。【寺田剛】
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