「夢は独裁」 “ミスター・デモクラシー”が憂えるトランプ氏の半年

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ラリー・ダイアモンド氏=ロイター 拡大
ラリー・ダイアモンド氏=ロイター

 米国の民主主義は深刻な危機にさらされるだろう――。民主主義研究で知られる米スタンフォード大のラリー・ダイアモンド教授は2024年の大統領選を控えた昨年10月、毎日新聞のインタビューに対し、トランプ大統領が勝利した場合をそう懸念していた。トランプ氏が返り咲いてから半年あまり。「ミスター・デモクラシー」と呼ばれるダイアモンド氏に、現状をどう受け止めているのか聞いた。【聞き手・ワシントン西田進一郎】

 ――懸念していた状況になっていますか。

 ◆私は米国が権威主義的な方向に進んでいると確信している。最も懸念されるのは、大統領権限の拡大と乱用、そして個人的な野心のために大統領権限に基づくさまざまな手段を武器として使っていることだ。

 トランプ氏は憲法上の「チェック・アンド・バランス(抑制と均衡)」の規定を無視し、イデオロギー的な政策を進めている。例えば、大統領と行政機関は、連邦議会が承認した予算の支出を保留できないという法律と先例がある。しかし、議会との連携や適正な手続きを故意に無視し、恣意(しい)的かつ不透明な方法で、連邦政府機関の縮小や閉鎖、職員の大量解雇など多くの措置を行っている。

 一部の機関は反撃しているが、同時に起こっていることが多すぎるため、人々は適切なタイミングで反応できていない。法律事務所や大学も威嚇し、屈服させようとしている。公務員や軍隊からは政権に批判的な人たちを排除し、多くの都市では移民・税関捜査局(ICE)などが合法的に滞在している人々まで拘束し、「恐怖の状態」に陥っている。

 腐敗の疑いも深刻だ。トランプ氏の家族は、政府の政策や規制緩和、例えば仮想通貨(暗号資産)分野の措置などで驚異的な富を蓄積しているとみられている。世界中の富裕層や湾岸諸国は、トランプ氏の息子や家族企業を豊かにすれば、自らが大きな利益を得られると期待している。

 一方で、司法省は独立性を失った。多くの省庁の監査官や腐敗を監視する機関の職員らは解雇され、不正な行為を監視したり、制約したりする多くの仕組みが弱体化した。

 ――膨大な数の大統領令で政策を進めており、議会による「チェック・アンド・バランス」は効きません。

 ◆非常に懸念している。民主党の大統領も共和党の大統領も、議会の行き詰まり状態を打破するために、近年は大統領令の活用を増加させてきた。しかし、トランプ氏が行っていることの規模やその「攻撃性」は、質量両面でこれまでの政権とは異なる。

 ――司法によるチェックも受け止めていない。

 ◆トランプ氏は裁判所の判断に対して、正直で責任ある態度を示していない。重大な係争事項はほぼ必ず連邦最高裁に上訴される。トランプ政権は、最高裁から「最高裁の決定に反している」と言われるまで、うやむやなままやり続ける。それは憲法上の危機となり、よりあからさまな権威主義への一線を越えることになるだろう。

 ――トランプ氏はどのような体制を築こうとしていますか。

 ◆まず、トランプ氏や取り巻きの人たちは、制約や「チェック・アンド・バランス」も受けず、自分のビジョンを実現する「超強力な大統領」を夢見ている。予算の優先順位を決め、議会の予算を没収または再配分する。連邦政府の逮捕権や嫌がらせの権限を利用して批判者を威嚇し、罰する。独裁的な方向へ傾く超権限強化型の大統領制だ。

 第二に、ハンガリーのオルバン政権のようなシステムを構築したいと考えている。メディアへの威嚇▽市民社会に対する懲罰▽選挙制度の支配▽選挙区の区割りや仕組みが支配政党に圧倒的な優位性を与えるように乗っ取る――というシステムだ。

 これにより将来の選挙で支配政党が打ち負かされる可能性が非常に低くなる。共和党が「道徳的に正しい政党」として無限に支配するため、あらゆる手段が許されると考えているのだ。

 権力を拡大し、それを用いて敵対者を打ち負かす。ルールを乗っ取って歪曲(わいきょく)し、圧倒的に不公平な優位性を確保して無限に権力を維持する。この二つが目標だと考えている。

 ――米国の民主主義の見通しは暗いということですか。

 ◆米国が非民主主義国家になることはないと思う。オルバン政権のハンガリーのような選挙独裁体制になることもないだろう。米国の市民社会や国家のさまざまな部分、選挙制度には、トランプ氏の試みを制約し、押し返すための十分な活力や精神、創造性などが残っているからだ。ただし、絶対にそうならないとは断言できないほど、非常に危険な状況にある。

Larry Diamond

 1951年生まれ。米政治学者で、スタンフォード大フーバー研究所のシニアフェロー。世界における民主主義の退潮をいち早く指摘してきた。著書に「侵食される民主主義」(邦訳版は勁草書房)など。

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