日米間の「トランプ関税」を巡る通商合意により当面の不透明感は後退した。しかし、米国の経常赤字が縮小しない現実に対して、トランプ大統領が再び不満を募らせ、関税強化路線に舞い戻る可能性は依然としてくすぶっている。いわば“トランプ関税劇場”第3幕の火蓋(ひぶた)が切られるリスクは、常に背後に潜んでいる。
かすむ自由貿易の理想
通商交渉とは、互いに譲り合い、利益のバランスを探るもの――。かつてはそう信じられていたが、近年、その前提は揺らいでいる。自由貿易の理念を掲げつつ、現実には力の論理が支配する場面が増え、交渉の舞台もまた変質しつつある。
先ごろ合意に至った日欧韓と米国の通商交渉は、まさにその典型といえる。形式的には“合意”でも、実態は「米国による、米国のための交渉」に他ならないからだ。トランプ関税後の世界を読み解くにあたり、今回の米国主導による非対称な通商合意の背景とその帰結について考えてみたい。
力の論理が支配する関税交渉
「Trump-dominated global economy(トランプが支配する世界経済)」。これは7月28日の米ネットメディア「アクシオス」のトランプ関税に関する記事の書き出しだ。
この書き出しからもわかる通り、日本並びに欧州連合(EU)との通商合意の内容は米国にとってまさに「破格」ともいえる好条件だった。
実際、当初の要求より引き下げたとはいえ、15%の関税引き上げを受け入れさせた上で、日本とEUからそれぞれ5500億ドル(約81兆円)と6000億ドルという巨額の対米投資を引き出すことに成功。またエネルギーや航空機など米国製品の大量購入の約束も取り付けた。その後、韓国とも15%関税、3500億ドルの対米投資、1000億ドルのエネルギー購入で合意したのは周知の通りだ。
各国のこうした「貢ぎ物」に対して、米国が与えた「見返り」は、本来自由であるはず…
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