
大阪市が数十年にわたって日本一の座を争ってきた“不名誉”な記録がある。
放置自転車の全国ワーストワン――。
汚名を返上しようとする行政側と違反者との間で、取り締まりと置き去りのイタチごっこが長年続けられてきた。
業を煮やした行政側は、大阪・関西万博をきっかけに対策を強化した。
攻防はいま、重大局面を迎えている。
「買い物のためにちょっと置いただけ。何が悪いのか」
「説明態度が気に入らない。責任者を出せ!」
大阪市浪速区のJR芦原橋駅近く。阪神高速道路の高架下に設けられた「浪速西自転車保管所」に、市内で撤去された放置自転車が運ばれてくる。4200平方メートルのスペースを確保しているが、多い時には1000台超の自転車がぎっしりと並ぶ。
撤去自転車の約6割は持ち主が返還を求めに来る。ただし返却には保管手数料として3500円が必要だ。
スタッフらは朝から夕方まで対応に追われ、開き直りともとれる発言や強い非難の言葉を浴びせられることも少なくない。
保管所ではスタッフがため息を漏らしていた。気苦労は放置自転車対策の歩みとも重なる。
たこ焼き、お好み焼きに並ぶ「名物」?
大阪市の放置自転車台数は1990年代には全国最多となり、一時は5万台を超えた。所構わず置き去りにされる自転車は、たこ焼きやお好み焼きに並ぶ「大阪名物」とも皮肉られた。
市は2008年度から「ワーストワン返上」を合言葉に対策を本格化させた。駐輪場を整備する一方で、短時間での放置でも撤去が可能になる「放置禁止区域」の拡充を断行した。
これが20年近くにわたる攻防のはじまりだった。
取り組みが功を奏したのか、13年にワーストワンを脱した。令和に移っても名古屋市の日本一が続いていたが、最新の23年調査では再び逆転して大阪市が舞い戻ってしまった。
放置台数は2848台で、対策強化前の07年に比べると9割減った。ただ、全国的に減少する中で大阪の突出ぶりが際だった。
とりわけ、大阪・ミナミは放置自転車の「巣窟」とも言われる。路地に多くの自転車が乗り捨てられ、歩行者がすれ違うことさえ難しい場所もある。
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