東日本大震災の津波で甚大な被害を受け、復活を果たしたものの、近年の海水温上昇で再び存続の危機に瀕(ひん)している宮城県石巻市のホヤ養殖を応援しようと、福島県浪江町のフランス料理店「ジョワイストロナミエ」は11日、ホヤ料理が食べ放題の「ホヤナイト」を初めて開催する。
原発事故影響の浪江にある仏料理店
同店は、東京・恵比寿の老舗フランス料理店「ビストロ・ダルブル」でシェフを務めてきた無藤哲弥さん(51)が、東京電力福島第1原発事故で全町避難となった浪江で「食材の質は高い。再びここを人が集まる場所にしたい」と2024年6月にオープンした。
石巻でホヤを養殖する渥美貴幸さん(42)とは、東北の食の復興に取り組む一般社団法人「東の食の会」(東京都品川区)の紹介で震災後に知り合った。「味がストレートで、しかも毎月変化するのが楽しい」とホヤの魅力を知り、殻を使ったビスクなどホヤをふんだんに使ったフルコースをダルブルで提供するなどしてきた。
渥美さんは牡鹿半島のホヤの名産地、石巻市谷川浜(やがわはま)出身。水産業に憧れて祖父の漁業権を継ぎ新規就業した。震災の前年に初めて養殖ホヤを出荷して軌道に乗りかけていたが、津波で養殖施設は全滅した。この時は海底にホヤが残っていたためそこから採苗ができ、産地を挙げて復活に取り組んだ。海底のがれきを撤去して施設を再建。最大消費地だった韓国が原発事故の影響で禁輸となったが、国内の販路を開拓して乗り切った。
「震災後よりも今の方が厳しい」
だが、ここ数年は海水温が急激に上昇。渥美さんの施設では8割が死滅してしまうという。さらに、谷川浜は天然のホヤの種が採取できる全国でも珍しい場所だが、その種も3分の1に減った。廃業する漁師も出ている深刻な状況に、渥美さんは「震災後より今の方が厳しい。これから産地そのものがどうなってしまうかも分からない」と頭を抱える。
無藤さんは「ホヤ漁の苦境を知ってほしい。原発事故で住民がゼロになった町から応援したい」と「ホヤナイト」を企画。渥美さんが水揚げした新鮮なホヤを使った料理を3000円で振る舞う(ドリンク別)。渥美さんは「イベントはすごくうれしい。無藤シェフにはいつも気に掛けてもらい、料理も素晴らしいので楽しみです」と期待する。
問い合わせはジョワイストロナミエ(0240・23・5773)へ。【錦織祐一】
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