
開かずの倉庫の奥に眠っていたのは、環境の変化や食糧難を乗り越える可能性を秘めた、無数の種子だった。
兵庫県・六甲山の中腹にある神戸大キャンパス。大学院農学研究科の石井尊生(たかしげ)教授(植物育種学)の研究室には、いくつもの袋に小分けにされた種子の標本がある。いずれも約70年前にインドシナ半島で収集されたイネの在来品種だ。
「浜田コレクション」
1957~58年、日本民族学協会(その後改組、解散)が主催する日本の学術調査団がタイやカンボジアなど東南アジアの国々を歴訪した。言語学や民族学など複数の班のうち、農学班のメンバーとして農村の調査に当たったのが、神戸大農学部の前身、兵庫県立兵庫農科大で教授を務めた故・浜田秀男氏(1899~1994年)だった。
浜田氏は現地でイネの在来品種を集め、日本に持ち帰った。帰国後はそれらを分析し、報告書や論文にまとめた。そして退職時、大量のコレクションを大学に寄贈したらしい。しかし、人の出入りの少ない事務倉庫に置かれたまま忘れ去られ、月日が過ぎた。
「封印」が解かれたのは2006年のこと。倉庫の改修工事の際に偶然…
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