「性加害の構造知って」 困窮少女支援の女性が新著に込めた思い

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新著について話す仁藤夢乃さん=東京都内で2025年6月5日午後8時49分、白川徹撮影 拡大
新著について話す仁藤夢乃さん=東京都内で2025年6月5日午後8時49分、白川徹撮影

 東京を拠点に困難を抱える少女たちを支援する一般社団法人「Colabo(コラボ)」代表の仁藤夢乃さん(35)が新著「10代から考える性差別・性暴力 バカなフリして生きるのやめた」(新日本出版社)を出版した。少女が「商品化」される実態や背景についてインターネットメディアで連載してきた記事に加筆して一冊にまとめた。仁藤さんは「10代に性差別や性加害の構造を知ってもらいたい」と話している。【聞き手・白川徹】

 ――本のタイトルに込めた思いを教えてください。

 ◆性搾取する、またはそれを容認する人たちに対し、少女は身を守るため、苦痛を感じないようにするため、あえてニコニコして何も分からないふりをすることがあります。10代の時に行き場もなく街をさまよっていた私もそうでした。買春者は「困っている子に援助してあげている」という身勝手な理屈で買春行為を正当化します。「バカなフリして生きるのやめた」は、少女や女性を力のない存在として扱う人や性搾取を容認する人にあらがおうとする私たちの宣言です。

 ――本書で男性と女性の間にある「構造的な暴力」について指摘しています。

「10代から考える性差別・性暴力 バカなフリして生きるのやめた」の表紙=新日本出版社提供 拡大
「10代から考える性差別・性暴力 バカなフリして生きるのやめた」の表紙=新日本出版社提供

 ◆少女の売春行為は「好きでやっている」「楽して稼ごうとしている」と非行や貞操観念の問題に矮小(わいしょう)化されてきました。少女たちは家庭で暴力や貧困に苦しみ、福祉にも助けてもらえず街に出ていきます。男性の接近が性搾取が目的だったとしても衣食住を得るために従わざるを得ないのです。少女の考え方に問題があるのではなく、「気軽に」買春する男性たちの問題ではないでしょうか。メディアは補導される少女たちをセンセーショナルに報じるのではなく、買春者を取材してほしいと思います。

 ――繁華街でさまよう少女たちはどのような背景を持っているのでしょうか。

 ◆多くが貧困家庭で育ち、裕福でも虐待を受けたり、家に食べるものがなかったりという話をよく聞きます。知的障がいや病気を抱える少女も少なくありません。以前は「こんな生活やめたい」と相談してくる少女もいましたが、最近は助けを求めるのを諦めている少女が多いです。小さい頃からSOSを出しても適切に対応されなかった経験が積み重なっているのかもしれません。

 ――日本では買春に対するハードルが低いように思います。

 ◆少女を性的対象として消費する文化が背景にあります。例えば、高校の文化祭でメイドカフェが開かれることがあります。痩せていてかわいい女の子がフリフリの服を着て、男の子はワンコインで少女を性的に消費することを体験します。「お金で買う」のは一番簡単な支配です。大人たちは性搾取が何かを教えていません。講演でそのような話をすると「(メイドカフェなど)好きなものを否定され腹が立った」という感想が寄せられます。少女を消費する権利があると信じているのでしょう。

 ――繁華街で売春の客待ちをする少女らが一斉補導されたというニュースを見ますが、(相手が18歳未満の場合を除き)買春者が検挙された話は聞きません。

 ◆売春防止法では「売春の相手方」という位置づけで、買春者を罰する規定はありません。買春者は女性を買うことについて「女性への応援」や「権利」と思っている人が多いと感じます。日本社会では買春が人権侵害に当たることが認識されていません。

 ――コラボの活動に対し、インターネット上で誹謗(ひぼう)中傷やデマの拡散が起きています。

 ◆当事者が声を上げた時に強い反発が起きると感じています。特に2015年に外国人特派員協会で「JKビジネス」における売買春の状況を発表した時や、16年に性搾取に遭った少女らの体験や思いを伝える文章や写真を展示した「私たちは『買われた』展」を開いた時は、SNS(交流サイト)上で「買ってもらっただけありがたいと思え」「売ってなきゃ買わねえ」など差別的な言葉を浴びせられました。

 ――コラボは支援団体ではなく当事者団体を名乗っています。

 ◆コラボは私のほか、スタッフの多くが少女らと同じ経験を持つ「当事者」です。少女に寄り添い、自分の人生を歩めるよう一緒に考えています。「助ける」というスタンスではありません。性搾取の実態を明らかにし、困難な状況にある少女が性搾取や暴力を引き受けなくてもいい社会になるよう声を上げていくことが重要だと考えています。

にとう・ゆめの

 1989年生まれ。明治学院大学国際平和研究所研究員。家庭や学校に居場所がなく、中高時代は多くの時間を東京・渋谷の街で過ごした。2013年に一般社団法人「Colabo」を設立。虐待や性暴力被害を受けた10代女性の相談や宿泊支援を続けているほか、困難を抱える少女たちの実態を伝えている。著書に「難民高校生 絶望社会を生き抜く『私たち』のリアル」(英治出版)など。

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