
もし原発が建つ地域で大地震が起き、原発事故も重なる複合災害になれば、住民の避難はかなり難しくなる。その時、住民の安全をどう確保したらいいのか――。
この難題を突きつけられたのが、2024年元日の能登半島地震で被災した石川県志賀(しか)町の稲岡健太郎町長だ。
北陸電力・志賀原発を抱える町のトップとして感じたのは、避難計画の抜本的な見直しの必要性だった。
折しも、政府内では防災庁の発足に向けた議論がされている。行政は、原子力災害にどう備えるべきなのか。
<インタビューの主な内容>
・避難計画の抜本的見直しはなぜ必要か
・政府が設置を目指す防災庁への期待
・住民の避難のため政府に求める支援
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頭をよぎった「万が一」
――能登半島地震の直後、原発事故が頭をよぎったそうですね。
◆(11年の)東日本大震災で複合災害の映像を見て、原子力災害が日本でも起きてしまうんだと思ったからです。
東日本大震災の当時は実家の家業を継いで、建設業の現場監督をしており、金沢市内の現場でも揺れを感じました。
24年元日の地震は、震災の時の金沢で感じた以上の揺れでした。
志賀原発は(再稼働の前で)停止中と分かってはいましたが、やはり万が一のことを考えました。
――志賀町は17年に原子力災害に備えて避難計画を立てています。今回の地震を受けて、計画の内容は十分だったと思いましたか。
◆今回の地震で、能登半島全体が大きな被害を受けました。
だから、今後は地震が起きた後の道路状況や迂回(うかい)路などを考慮し、避難先を柔軟に変更するなど計画の見直しが必要かと考えています。
原子力規制委員会の原子力災害対策指針では、原発で重大な事故があれば、原発の状況などによって、原発から5キロ圏内の「PAZ」の住民と、5~30キロ圏の「UPZ」の住民が段階的に避難することになっています。
その際、5キロ圏内の住民が最初に避難します。ですが、今回の地震を振り返ると、それすら難しかったのです。
そして、5~30キロ圏の住民が一斉に避難すると、さらに渋滞を招くわけです。
規制委の指針では、原発の状況次第で5~30キロ圏の住民は、建物内にとどまる「屋内退避」となります。
今回のような地震で家が損壊した場合、どうすればいいのでしょうか。
その答えを考えると、住宅の耐震化率を上げるしかありません。
他の自治体の耐震化率は、能登の市町よりもずっと高いです。
耐震化率の低さと高齢化によって耐震化する意欲が低い人が多くいることが、今回の地震で明らかになりました。
今回、原発事故との複合災害になっていた場合、もっと悲惨な状況になっ…
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