開催中の全国高校野球選手権大会で、春夏通じて初の甲子園出場で白星を挙げた綾羽(滋賀)。
母校を甲子園に導いた千代(ちしろ)純平監督(36)の定位置はベンチの中央と決まっている。
甲子園で最も遅く始まり、終了時刻も最も遅くなった8日の1回戦。延長十回タイブレークの末に高知中央から劇的勝利を収めた試合でもそうだった。
「自分には合わないので……」
その真意にこそ、快進撃の原動力が凝縮されている。
明るく前向きなチームで
定位置を中央へと変えたのは、昨年だった。
それまでは「(相手チームに)サインを見られたらダメだと思っていた」とベンチの端に身を寄せていた。
しかし「コソコソするのは自分には合っていない」と、立ち位置を変えた。
「明るく前向きに」をスローガンに掲げるチームで、積極的に選手とコミュニケーションを図り、持てる力を引き出すのが自身の役目だと気づいた。
甲子園初登場となった1回戦では1点を追う九回の攻撃前に選手を集めた。
「ほら、お月さん見ろ」
甲子園の大時計は午後10時を指そうとし、上空の円い月が球場を照らしていた。
「甲子園で野球しながらお月さんを見られることはないぞ。ホンマ幸せなんやから最後しっかり攻撃しようぜ」
冗談も交えた。
「ツキが向いてくるぞ」と。
チームの雰囲気が和んだ瞬間だった。
九回の攻撃は2本の安打と死球で2死満塁の好機を作った。代打の川中雄人選手(3年)が放った遊ゴロが相手のミスを誘い、同点に追いついた。
無死一、二塁から始まる延長十回タイブレークの先頭は頼りになる主将の1番・北川陽聖(ようせい)選手(3年)だった。
千代監督は迷いなく強攻策を選択。北川選手は期待に応え、右中間を破る2点適時三塁打を放ち、この回一挙4点を奪った。
「今日はおまえの日だぞ」
そう鼓舞していた3番手の左腕・藤田陸空(りく)投手(3年)が締めて、逃げ切った。
初勝利をつかんだ千代監督は「本当に特別な日。人生で初めて味わう日です」と感慨深げに語った。
2回戦は大会第9日の14日、第3試合でセンバツ王者の横浜(神奈川)と対戦する。【村上正】
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