マイペースな右腕は今春のセンバツのリリーフで飛躍のきっかけをつかみ、エースに成長した。夏の甲子園出場は自分と同じ故障で苦しんだライバルへの恩返しでもあった。
東洋大姫路(兵庫)は15日、第107回全国高校野球選手権の2回戦で花巻東(岩手)と対戦する。1回戦の済美(愛媛)戦で、7安打3失点で完投した木下鷹大(ようた)投手(3年)は「次の試合のことは考えない。どんどん投げていく」と闘志をみなぎらせている。
「もう出場できないかも」
昨年夏、右肘の靱帯(じんたい)を痛めた。秋の兵庫県大会が迫っていた。木下投手は同大会と近畿地区大会を勝ち抜いて出場できる明治神宮大会に照準をあわせていた。だが、「もう出場できない」と落ち込んだ。
「センバツに連れていくから、一緒に投げよう」と励ましてくれたのは同じ右腕の阪下漣投手(3年)だった。中学生の時、兵庫県選抜チームで一緒になったこともあった。181センチの長身でマウンドに立つ姿はまぶしく、コントロールや配球も的確。木下投手にとって「到底勝てない」とすら思わせるライバルだった。
阪下投手は約束通り、近畿大会で決勝を含む3試合を完投勝利で飾るなどの活躍をみせ、チームを3年ぶりのセンバツ出場に導いた。だが、センバツ初戦の一回、右肘の張りを訴えて降板した。靱帯損傷だった。
「今度は俺が甲子園に連れていく」
救援したのがけがから復帰した木下投手だった。「阪下より良い球を投げたい」と、授業の合間におにぎりをほおばって体をつくり、磨いてきた持ち味の直球を駆使した。自己最速の147キロをマークし、九回まで無失点と好投し、チームは勝利した。
夜、宿舎で同部屋の阪下投手に約束した。「今度は俺が甲子園に連れていくから。リハビリ頑張れよ」。阪下投手は「周囲には言わなかったけれど『野球を諦めようか』とも思っていた。でも、木下の言葉で心が上を向いた」と振り返る。
木下投手は、阪下投手からフォームや配球のアドバイスを受けて投球術を磨くようになった。
1回戦は完投勝利
迎えた夏の兵庫県大会決勝。序盤に右適時打を浴び、逆転されたが、阪下投手から「お前は悪くない。チームのみんなを信じて投げ抜こう」と励まされ、完投勝利した。「ありがとう」と阪下投手から声をかけられると、「当たり前やろ」とにやりと笑って返した。
済美戦で、木下投手は7安打3失点で完投した。1点差でリードしていた六回表が始まったころ、阪下投手は誰の指示も受けずにピッチング練習を始めていた。センバツ以来、公式戦での登板はなかったが球速は130キロ台まで戻っていた。「木下を少しでも助けられるように」。甲子園に連れてきてくれた恩返しの思いもあった。
同じ故障を乗り越えて、絆を深めてきた2人の右腕の最後の夏はまだまだ続く。【前田優菜】
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