白黒の切り絵で迫る、被爆直後の広島の惨禍 寺尾知文さん画集復刊

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「切り絵画文集 原爆ヒロシマ」の一部ページ=潮書房光人新社提供
「切り絵画文集 原爆ヒロシマ」の一部ページ=潮書房光人新社提供

 兵庫県養父市出身の漫画家で切り絵作家の寺尾知文さん(1917~2000)が出版した「きり絵画文集 原爆ヒロシマ」が6月、潮書房光人新社(東京)から復刊された。寺尾さんが見た被爆直後の広島の惨禍が、白と黒のツートンカラーの切り絵で表現されている。復刊を企画した同社の坂梨誠司さん(64)は「迫力のある切り絵を多くの人に見てもらいたい」と話す。

 広島に原爆が投下された1945年8月6日、広島にあった陸軍の船舶部隊「暁部隊」に配属されていた寺尾さんは、爆心地から約6キロ離れた場所にいた。すぐに爆心地近くに入り、人々の救護に当たった。

寺尾知文さん=潮書房光人新社提供
寺尾知文さん=潮書房光人新社提供

 戦後は児童向けの漫画家として活躍し、被爆当時のことは思い出すのも怖かったという。だが、60歳を過ぎてから駆り立てられるように絵筆をとり、原爆を題材にした作品に取り組んだ。

 1982年に出版された切り絵画集は、自らの目で見た被爆地での人々の姿を中心に描いている。焼け焦げた兵隊、亡くなった子どもを背負う母親、水面に浮かぶ大量の死体――。白と黒で表現された人々の険しい表情や死に絶えた人の後ろ姿などは、見る人に鮮烈な印象を与える。

 坂梨さんは約40年前に寺尾さんの画集を知り、絶版状態になった後は、いつか再び世に出せないかと考えていた。24年夏ごろ、被爆80年の節目に向けて社内で復刊を呼びかけ、採用された。

「切り絵画文集 原爆ヒロシマ」の表紙=潮書房光人新社提供
「切り絵画文集 原爆ヒロシマ」の表紙=潮書房光人新社提供

 しかし、亡くなった寺尾さんの著作権継承者が分からず復刊作業は足踏みしてしまう。そんな中、坂梨さんは偶然、ユーチューブで寺尾さんの切り絵画集を朗読する映像を見つけた。

 朗読していたのは「ヒロシマを語り継ぐ会」。広島女学院中学高校の卒業生で作る神戸市の市民団体で、原爆にまつわる文学作品を朗読劇として発表していた。同会の浅海和子代表(77)を介して、坂梨さんは寺尾さんの親族に連絡することができて、復刊の快諾を得た。

 A5判104ページ。若い世代の人たちに伝わりやすいように、初版にはなかった戦時中の用語集を追加した。今後は英語版も検討している。坂梨さんは「被爆80年で当時のことを知る人が減っている中で、若い人たちにも作品を見てもらって何かを感じてもらいたい」と語った。【井村陸】

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