興収100億円「国宝」が照らす日本映画界の影と“文化振興”の現実

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【ひとシネマ】「国宝」©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
【ひとシネマ】「国宝」©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

 「国宝」を、封切り後2カ月近くたった7月末にやっと見た。

 避けていたわけではない。この作品が出た6月は多くの日本映画が公開されたため、それらを見逃さないように、せっせと映画館を駆け巡っていた。

 大ヒットの様相を呈していた「国宝」は当分上映が続くだろうから、いつ打ち切りになるかわからない小規模な新作を優先して見ていこうというわけだ。

 その間、映画評論家として20本近い新作に出合った。「青春ゲシュタルト崩壊」「この夏の星を見る」「愛されなくても別に」「夏の砂の上」「YOUNG&FINE」あたりは、ちゃんと対峙(たいじ)しておいて本当に良かったと思う。

公開700本の大半が低予算、赤字

 現在の日本映画界においては、巨額の製作予算、宣伝費をかけてヒットを狙う大手映画会社配給作品が月に2、3本公開される以外に、なんとか予算を工面して製作した膨大な数の劇映画がある。

 その大多数は「自主製作映画」と呼ばれる製作費数百万円から2000万円程度の規模のものだ。年間700本近くが劇場公開される中の大半は、これが占めている。

 自主製作映画にとっては、まず劇場公開へこぎ着けるところで相当高いハードルがある。それを乗り越えなんとか公開したとしても、製作費の40倍近い10億円の興行収入に届く超大ヒットとなった昨年の「侍タイムスリッパー」の例は極めてまれだ。

 大方は、採算ラインに到達することなく終わってしまう。これがまた、結果的に映画製作現場を低収入の「ブラック労働」にする主要因でもあるのだ。

 最短で興行収入100億円を突破した「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」とか、95億円を超えて100億円到達が期待される「国宝」など夢のような話でしかない。

黒字化は至難の業

 仮に1000万円で作った映画の場合、興行収入は映画館側と製作者側で折半だから少なくとも2000万円(実際は配給宣伝費を製作者側が負担するから、もっと必要)に達しないと赤字だ。

 興行収入2000万円といえば、概算で7000人の観客動員が求められることになる。集客力のあるスターを起用したり、撮影期間をたっぷり取って入念に作り上げたりするのは無理な低予算映画、しかもシネコンでの上映などあり得ず、ミニシアター系の上映館に頼っての公開だから、よほどの話題性でもない限り至難の業と言うしかない。

 わたし自身、ひょんなことから「戦争と一人の女」(2013年)という映画を自主製作したのに始まり、何本かの作品をプロデュースしてきたが、全部赤字に終わっている。

贅沢な作り、演出の力 最高レベル

 さて、そんな世界とは比較にならない贅沢(ぜいたく)な作り方をされた映画が「国宝」である。製作費は12億円といわれ、壮大なアクション場面や海外ロケがないにもかかわらず、これだけの額を投じるのは日本映画の最高レベルだろう。

 そして、それだけの巨費をかけたにふさ…

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