
アフリカの楽器、カリンバ。親指ピアノとも呼ばれ、細長い金属の鍵盤を指ではじくと、柔らかくも魅惑的な音色を放つ。京都市のカリンバ奏者、木佐貫洋平さん(40)は巧みな演奏スキルを持ち合わせるだけでなく、あの手この手で面白い動画を撮っては自身のカリンバ曲をBGMとして流す。「カリンバを知ってもらうために“全力の冗談”に取り組んでいます」【前本麻有】
インスタグラムのフォロワー155万人、再生回数1億超の動画など、各種SNS(交流サイト)では「ろくろ遊びの人」としても知られる。

ろくろ上のシートにペンで模様や愉快なおじさんのイラストを描いていく。回転するとおじさんが歩いたり、跳びはねたり、アニメーションのように動いて見え、同時に流れてくるカリンバの音楽も心地よく、つい見入ってしまう。
「最近、ライブに『ろくろの動画を見て来た』というお客さんが来てくれるようになりました。もくろみ通りになって、うれしいです」とほほ笑む。
活動名やSNSアカウントの「Limba Trip(リンバ・トリップ)」のリンバは、タンザニアの親指ピアノのこと。アフリカでは親指ピアノと称される楽器が各地にある。カリンバは南アフリカの楽器メーカー・AMI社の商品名でもあり、自身が愛用しているのは同社製の「クロマチックトレブルカリンバ」だ。本体の両面に計34鍵盤があり、正面からは見えない裏の鍵盤も巧みに弾きこなす。
鹿児島市出身、もともとはベーシスト。カリンバを演奏するようになったのは2010年ごろ。コートジボワール生まれのドラマーでカリンバの名手でもあるパコ・セリーの演奏動画を見て、衝撃を受けた。
以来、独学で演奏スキルや表現力を培ってきた。阪急電鉄のメロディー、方言を話す人のイントネーションなど、耳にした音をカリンバで出してみる。「あらゆる音を拾っては譜面に起こし、『音楽力』を鍛えている」という。録音、再生できる音楽機材のループマシンを使って、カリンバの音を重ねた即興パフォーマンスは他のカリンバ奏者とは一線を画す。

カリンバは両手で持てるサイズ。まるでゲーム機を手にしているような感じだ。そう感じた木佐貫さんは任天堂の「ゲームボーイ」(故障した古い本体)を使ったカリンバを自作。他にも車のワイパーの金属部品などを使ってカリンバを手作りし、それらを奏でる動画もある。
カリンバは、ピアノやシンセサイザーのような音域や多様な音を出せるわけでない。それでも「制限がある中で表現するのが楽しく、足りない音があるのも魅力」と語る。笑える動画から発信される本気の音色が、人々を魅了している。
きさぬき・ようへい
1985年、鹿児島市出身。小学1年でピアノ、同6年でギターを始め、大学進学を機に関西へ。これまでカリンバ曲のアルバム10作を発表。ろくろの動画は2021年から取り組み、人気となっている。
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