身近なのに謎多き猫… 工夫で進む研究、高まる熱 伝承解明も近い?

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毛布の上でくつろぐ三毛猫。長年の謎だった茶色と黒の毛色を決める遺伝子の正体が解明された=大阪府内で2024年12月3日、菅沼舞撮影
毛布の上でくつろぐ三毛猫。長年の謎だった茶色と黒の毛色を決める遺伝子の正体が解明された=大阪府内で2024年12月3日、菅沼舞撮影

 源氏物語や枕草子にも登場し、古くから人間と生活を共にしてきた猫。飼育頭数で犬を逆転し、その経済効果「ネコノミクス」の2025年試算は3兆円に迫る勢いだ。学術分野からの関心は低かったが、近年は猫を対象とした研究熱が高まっている。

 「三毛猫の毛色を決める遺伝子をついに発見」。今年5月、日本の研究グループの成果を伝えるニュースが、世間をにぎわせた。

猫研究の最前線
猫研究の最前線

 白と黒、茶色(オレンジ)の3色の毛色を持つ三毛猫はほとんどがメスだ。これは黒と茶色の毛色を決める「三毛猫遺伝子」が、性染色体のうち、メスに2本あるX染色体上にあるからだ。オスはX染色体が1本しかなく、1本のX染色体には黒と茶色の遺伝子が同時に存在しないため、三毛猫になる可能性はかなり低い。

 ただ、この遺伝子がX染色体にあることや、黒や茶色になるメカニズムは60年以上前に分かっていた。だが、肝心の遺伝子の正体は長年解明されなかった。

 それはなぜか。「三毛猫遺伝子探索プロジェクト」を率いる九州大の佐々木裕之特別主幹教授(分子生物学)は理由をこう説明する。「最終的な遺伝子発見には、高度な技術と設備、多くの予算と労力が必要で、世界的に見ても注力できる研究室は少なかったのでは」

 佐々木さんは遺伝子のオン・オフを制御するシステム「エピジェネティクス」の研究で世界的に知られる研究者。プロジェクトには一流のメンバーが結集し、技術も設備も万全だったが、予算が課題だった。

 そこで、研究費をクラウドファンディングで募ったところ、619人から、目標金額の2倍を上回る総額1068万円が寄せられた。「猫そのものを知る」研究に対する一般の関心が高まっていることを佐々木さんも肌で感じたという。

猫の行動実験では、実験者や飼い主が頭にカメラをつけて、猫の様子を観察することもある=服部円さん提供
猫の行動実験では、実験者や飼い主が頭にカメラをつけて、猫の様子を観察することもある=服部円さん提供

 猫の行動や知性・生態などの研究に関わる研究者らの集まり「CAMP NYAN TOKYO」のメンバーで、「ネコは(ほぼ)液体である ネコ研究最前線」(KADOKAWA)の著者でもある猫研究者・編集者の服部円さんも、猫に注がれる視線の熱さを実感している。

 服部さんたちは、研究や調査に協力してくれる「ネコ研究員(猫とその飼い主)」を随時募集しているが、最近は応募が殺到して断ることもあるという。「書籍一つ取ってみても、以前は『ペットの飼い方』といった人間側の視点に立ったテーマしかなかったが、今は、猫の内面や猫側の視点を知る内容のものが増えた」と指摘する。

 猫の研究が増えている一因として、猫を取り巻く環境の変化があるという。

 服部さんによると、動物に関する科学的研究は多岐にわたるが、大きく分けると▽家畜の病気や育種に関する獣医学・畜産学▽野生動物の生態や保全に関する生態学・保全生物学▽他の動物と比べることで人の認知機能の進化を探る比較認知科学――がある。

 このうち、比較認知科学では人に近い霊長類が主な研究対象だった。しかし、2000年前後から社会的認知の点で人間に非常に近い反応を示すとされた犬の研究が急速に進展した。

 一方、猫の研究が犬よりも進まない主な理由として、京都大の高木佐保特定助教(比較認知科学)は「新規な場所や人への忌避」を挙げる。猫は警戒心が強く、見知らぬ実験室や実験者を怖がる傾向がある。食べ物を報酬として動物の行動を制御する実験も、猫では困難だ。

 ところが、最近では猫の飼育場所で実験を行うことが増え、実験手法も工夫されたことから、人と猫のコミュニケーションに関する論文が増加。動画投稿サイトで公開された動画から、猫の行動を分析する研究も注目を集めている。

遺伝子と行動特性の研究に協力した猫=京都大野生動物研究センター提供
遺伝子と行動特性の研究に協力した猫=京都大野生動物研究センター提供

 服部さんは「遺伝子と性質(性格)の関わりを調べる研究」を研究のトレンドに挙げる。例えば、京都大のチームは、喉をゴロゴロとよく鳴らす猫は特定の遺伝子が短い傾向にあることを解明。よく知られた猫の行動と遺伝子を結びつけた。

 猫の性質は一般的に独立心が強く気ままとされ、毛色との関係も指摘されるが、個体によって異なり、謎は多い。猫の遺伝子から行動特性を推測できるようになれば、猫やネコ科動物の飼育環境を個体に合わせて整えることができ、動物福祉につながるという。

 また、猫を家族の一員とみなし、人間並みの高度医療を求める飼い主が増えている。その声を受け、猫の人工多能性幹細胞(iPS細胞)や猫の腎臓病・感染症研究も進んでいる。

 「猫が顔を洗うと雨が降る」「猫は死に目に姿を消す」など猫に関する伝承を科学が解明する日は、案外近いのかもしれない。【菅沼舞】

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