
アパレルブランドの新しい広告に米国がざわついている。人気俳優のシドニー・スウィーニーさん(27)を起用した渦中のキャンペーン「グレート・ジーンズ」にはこんな動画がある。
横たわるスウィーニーさんが、デニムパンツのタックボタンをとめる。足元からウエスト、そして顔のアップへとカメラはゆっくりと振れ、本人の語りが重なる。
「ジーンズは親から子へと受け継がれ、多くの場合、髪の色や性格、目の色といった特徴を決定する。私のジーンズは青い」
7月下旬の公開からまもなく、ソーシャルメディアで「優生思想を想起させる」との批判に火が付いた。なぜか。
ここで「ジーンズ」は「genes」と「jeans」という発音が同じ二つの単語をかけている。前者は遺伝子の複数形、後者はいわゆるジーパンだ。動画にはいくつかのパターンがあり、どれも「シドニー・スウィーニーは、素晴らしいジーンズを持っている」という共通のキャッチコピーで結ばれる。
つまり批判の趣旨は、髪はブロンドで青い目の彼女のような白人女性像が「選ばれし遺伝子」とみなされかねないというものだ。そうではない人たちの遺伝子は劣っているのか、という問いかけでもある。一部のインフルエンサーは、優生思想にもとづいて「劣等」と見なす人びとを迫害したナチス・ドイツを引き合いに、怒りをあらわにした。
専門家レベルでは、1980~90年代にみられた性的なマーケティングの復権だとか、近年広がったインクルージョン(包括性)を意識した広告からのシフトが始まったといった論点も提供されている。
広告は時代を映す鏡と言われるが、両極化する米国には異なる世界感を映す別の鏡がある。
「2024年11月の(大統領)選挙から何も学ばなかったのか?」。バンス副大統領は人気の保守系ポッドキャストに出演した際、優生思想との結びつけはリベラルの過剰反応だと嘲笑した。皮肉をたっぷり込めた発言の一部を引用する。
「てっきり彼らが得た教訓の一つは、…
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