化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)を巡る冤罪(えんざい)事件で、警視庁は7日、公安部長ら幹部への報告が形骸化し、実質的な捜査指揮が不存在だったとする検証報告書を公表した。公安部幹部について「適切な報告がなくとも慎重に判断すべき立場にあり、その責任を免れない」と批判。公安部長が取り仕切る「部長捜査会議」を導入するなどして幹部の関与を強める再発防止策も明らかにした。
検証結果を受け、迫田裕治警視総監は記者会見を開いて謝罪した。警視庁トップの警視総監が会見で謝罪するのは異例。
警視庁は監察部門を中心に副総監をトップとする検証チームを6月に設置。退職者を含む歴代の公安部長以下の幹部や捜査員計47人の聞き取り調査や捜査メモを含む書類の精査をした。
報告書では、大川原の噴霧乾燥器が軍事転用可能で経済産業省の輸出規制省令に該当するとした公安部の独自解釈に対し、経産省が否定的だった経緯を踏まえ、立件への捜査の適否について慎重な検討がなされるべきだったと指摘した。
機器内部の温度が上がりきらず殺菌できないため、規制に該当しないという捜査上の消極要素も公安部内で精査されていなかった。
捜査をした外事1課で関与した3人の課長は部下に対する指揮監督が不十分だった。課長の交代時に適切な引き継ぎをせず、公安部長やナンバー2の参事官2人、筆頭課の公安総務課長の「4役」への報告も形骸化。4役も詳細な報告や検討を求めなかった。
現場を指揮した5係長は消極要素に十分な注意を払わず、上司の管理官は判断を5係長任せにしていた。取り調べが偽計的で違法だと国家賠償訴訟で認定された警部補に対しては、上司の指導が不徹底だった。
報告書は「捜査指揮系統の機能不全によって、組織として捜査の基本に欠けるところがあった。慎重に検討していれば、捜査方針が見直され、逮捕に至ることはなかった可能性は否定できない」と結論づけた。
検証チームの菅潤一郎・警務部参事官は「遅くても任意の取り調べで、温度が上がりにくい部分があるという指摘があった時点で、捜査方針の見直しができた」と述べた。
再発防止策については、適切な捜査指揮を担保するため、公安部長ら4役が参加して初期段階から捜査状況を報告させる部長捜査会議を新たに設ける。
また、担当課以外が捜査をチェックするため、公安総務課内に「公安捜査監督指導室」を10月に新設。さらに現場の捜査指揮に当たる管理官や係長らを部下が評価する仕組みを今秋から導入する。
冤罪事件を巡っては、外為法違反で2020年3月に逮捕・起訴された大川原化工機の社長ら3人の起訴が21年に取り消された。その後の国家賠償訴訟では、1審に引き続き警視庁公安部と東京地検の違法捜査を認定した今年5月の東京高裁判決が確定した。最高検も近く検証結果を公表する。【木下翔太郎】
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