40度を超えるほどの暑さが続く一方、夏は部活動が活発に行われる時期でもある。
熱中症のリスクを軽減するには、どんな対策が望ましいのか。
「40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか」の著書があり、体温調節の仕組みに詳しい早稲田大名誉教授の永島計さん(生理学)に話を聞いた。【聞き手・金志尚】
絶対的ではない暑さ指数
――この夏も非常に暑いです。日本スポーツ協会は熱中症の危険度を示す「暑さ指数」(WBGT)が31を超えた場合、「運動は原則中止」とする指標を出しています。
◆部活動の指導者には、こうした指標をしっかり念頭に置いてほしいと思います。
熱中症対策では水分補給がよく強調されますが、水さえ飲んでおけば大丈夫なわけでは決してありません。
暑さ指数が31を超えるというのは、水分補給をしていても熱中症に陥る可能性が高いということです。
指標に沿って、ちゅうちょなく中止の判断をすることが求められます。
暑さ指数は場所によって数字がかなり変わります。測定器を活動場所近くに設置しておくのが望ましいです。
――指標に沿っていれば、安心できますか。
◆そうとは言えません。
人間は常に体内に熱をつくっています。体温が気温より高ければ熱は外へ逃げていきますが、気温が高くなると体に熱がこもります。
体温の上昇に起因して引き起こされるのが、熱中症も含む「高体温障害」と呼ばれるものです。
指標は絶対的なものではなく、守っていれば熱中症が起きないわけではありません。室内競技であっても、リスクはあります。そのことにも留意する必要があります。
汗腺にも「休憩」を
――暑さ指数を確認する以外には、どのような対策が考えられますか。
◆最も暑い時間帯を避けるというのは一つです。
開催中の全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)は午前と午後に分けて試合を実施していますが、対策として評価できます。
ただし、高校生は発汗能力がまだ十分に発達していないので、そもそも大人に比べて熱中症になりやすい。
さまざまな工夫でリスクは減らせるとはいっても、ゼロにはできません。
長時間の活動も避けるべきです。
――日本スポーツ協会の指標でも、暑さ指数が31を超えた場合の運動について「特に子供は中止すべき」としています。これも発汗能力と関係がありますか。
◆そうです。高齢者も発汗能力が弱まっていて熱中症のリスクが高いのですが、それと同じことです。
――夏の甲子園で言うと、五回終了後にクーリングタイムが設けられ、空調の利いた場所で休めます。休憩の効果を教えてください。
◆汗腺も休まないと、汗をかけなくなってしまいます。
暑いからといって、とめどなく汗をかけるわけではないのです。
1時間に1、2リットルの汗をかけるような人でも、だんだん汗の量が減っていきます。
水を飲んでいないから減っていくのではなく、汗腺自体が機能低下を起こして減っていくのです。
だから、こまめに休憩するのが大事なのです。
疲労をためない
――部活動に参加する生徒たちは、どのようなことを心がけるべきですか。
◆よく寝て、よくご飯を食べることです。
睡眠が足りず、疲れた状態だと体温調節機能が低下し、熱中症のリスクが高まります。
ご飯は一種の水分ですから、食べないことは水分補給の観点からも良くありません。
また炭水化物を摂取しないと、水分の吸収や保持にも影響するので、その点でも良くないです。
――上達するために、毎日練習したい生徒もいるかもしれません。練習の頻度はどれくらいが望ましいですか。
◆繰り返しになりますが、疲労が蓄積すると体温調節の機能が下がります。
練習は1日置きにするなど、疲れがたまらないようにすべきです。
熱中症になったら体全体を冷やす
――熱中症になった場合、どうすればいいでしょうか。
◆熱中症にはいくつかの段階があります。
初期段階では脱水症状が起きて、ふらついたり、足がけいれんしたりします。
この段階であれば涼しいところで休み、水分を取れば回復が見込めます。
ただ、ここから悪化すると嘔吐(おうと)したり、場合によっては意識を失ったりすることもあります。
こうなると自力で水を飲めないので、点滴を打つなどの医療的な対応が求められます。
水を飲めないようでしたら、周囲の人は迷わず救急車を呼ぶべきです。
――体を冷やすのも効果的ですか。
◆はい。脱水症状が出た時点で冷やした方が良いです。
この際、脇の下や首筋を冷やすのが効果的だと言われることがありますが、それだけでは不十分です。
重要なのは、体全体を冷やすことです。可能でしたら周囲の人たちが頭を支え、浅めのプールなどに入れるのが望ましいでしょう。
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