「水さえ飲めば安心」ではない 部活中の子ども、熱中症リスクと対策

Date: Category:環境・科学 Views:2 Comment:0

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写真はイメージ=ゲッティ

 40度を超えるほどの暑さが続く一方、夏は部活動が活発に行われる時期でもある。

 熱中症のリスクを軽減するには、どんな対策が望ましいのか。

 「40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか」の著書があり、体温調節の仕組みに詳しい早稲田大名誉教授の永島計さん(生理学)に話を聞いた。【聞き手・金志尚】

絶対的ではない暑さ指数

 ――この夏も非常に暑いです。日本スポーツ協会は熱中症の危険度を示す「暑さ指数」(WBGT)が31を超えた場合、「運動は原則中止」とする指標を出しています。

 ◆部活動の指導者には、こうした指標をしっかり念頭に置いてほしいと思います。

 熱中症対策では水分補給がよく強調されますが、水さえ飲んでおけば大丈夫なわけでは決してありません。

 暑さ指数が31を超えるというのは、水分補給をしていても熱中症に陥る可能性が高いということです。

 指標に沿って、ちゅうちょなく中止の判断をすることが求められます。

 暑さ指数は場所によって数字がかなり変わります。測定器を活動場所近くに設置しておくのが望ましいです。

 ――指標に沿っていれば、安心できますか。

 ◆そうとは言えません。

 人間は常に体内に熱をつくっています。体温が気温より高ければ熱は外へ逃げていきますが、気温が高くなると体に熱がこもります。

41度を表示する伊勢崎駅前の温度計=群馬県伊勢崎市で2025年8月5日午後3時24分、渡部直樹撮影 拡大
41度を表示する伊勢崎駅前の温度計=群馬県伊勢崎市で2025年8月5日午後3時24分、渡部直樹撮影

 体温の上昇に起因して引き起こされるのが、熱中症も含む「高体温障害」と呼ばれるものです。

 指標は絶対的なものではなく、守っていれば熱中症が起きないわけではありません。室内競技であっても、リスクはあります。そのことにも留意する必要があります。

汗腺にも「休憩」を

 ――暑さ指数を確認する以外には、どのような対策が考えられますか。

 ◆最も暑い時間帯を避けるというのは一つです。

 開催中の全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)は午前と午後に分けて試合を実施していますが、対策として評価できます。

 ただし、高校生は発汗能力がまだ十分に発達していないので、そもそも大人に比べて熱中症になりやすい。

 さまざまな工夫でリスクは減らせるとはいっても、ゼロにはできません。

 長時間の活動も避けるべきです。

 ――日本スポーツ協会の指標でも、暑さ指数が31を超えた場合の運動について「特に子供は中止すべき」としています。これも発汗能力と関係がありますか。

 ◆そうです。高齢者も発汗能力が弱まっていて熱中症のリスクが高いのですが、それと同じことです。

 ――夏の甲子園で言うと、五回終了後にクーリングタイムが設けられ、空調の利いた場所で休めます。休憩の効果を教えてください。

 ◆汗腺も休まないと、汗をかけなくなってしまいます。

【小松大谷-創成館】ナイターとなった開幕試合=阪神甲子園球場で2025年8月5日、西夏生撮影 拡大
【小松大谷-創成館】ナイターとなった開幕試合=阪神甲子園球場で2025年8月5日、西夏生撮影

 暑いからといって、とめどなく汗をかけるわけではないのです。

 1時間に1、2リットルの汗をかけるような人でも、だんだん汗の量が減っていきます。

 水を飲んでいないから減っていくのではなく、汗腺自体が機能低下を起こして減っていくのです。

 だから、こまめに休憩するのが大事なのです。

疲労をためない

 ――部活動に参加する生徒たちは、どのようなことを心がけるべきですか。

 ◆よく寝て、よくご飯を食べることです。

 睡眠が足りず、疲れた状態だと体温調節機能が低下し、熱中症のリスクが高まります。

 ご飯は一種の水分ですから、食べないことは水分補給の観点からも良くありません。

 また炭水化物を摂取しないと、水分の吸収や保持にも影響するので、その点でも良くないです。

 ――上達するために、毎日練習したい生徒もいるかもしれません。練習の頻度はどれくらいが望ましいですか。

 ◆繰り返しになりますが、疲労が蓄積すると体温調節の機能が下がります。

 練習は1日置きにするなど、疲れがたまらないようにすべきです。

熱中症になったら体全体を冷やす

 ――熱中症になった場合、どうすればいいでしょうか。

 ◆熱中症にはいくつかの段階があります。

 初期段階では脱水症状が起きて、ふらついたり、足がけいれんしたりします。

 この段階であれば涼しいところで休み、水分を取れば回復が見込めます。

早稲田大名誉教授の永島計さん=東京都千代田区で2025年8月7日午後3時25分、金志尚撮影 拡大
早稲田大名誉教授の永島計さん=東京都千代田区で2025年8月7日午後3時25分、金志尚撮影

 ただ、ここから悪化すると嘔吐(おうと)したり、場合によっては意識を失ったりすることもあります。

 こうなると自力で水を飲めないので、点滴を打つなどの医療的な対応が求められます。

 水を飲めないようでしたら、周囲の人は迷わず救急車を呼ぶべきです。

 ――体を冷やすのも効果的ですか。

 ◆はい。脱水症状が出た時点で冷やした方が良いです。

 この際、脇の下や首筋を冷やすのが効果的だと言われることがありますが、それだけでは不十分です。

 重要なのは、体全体を冷やすことです。可能でしたら周囲の人たちが頭を支え、浅めのプールなどに入れるのが望ましいでしょう。

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